防空壕を出ると、世界が変わっていた。
「あちこちから泣きわめく声、助けを求める悲痛な叫びがしており、阿鼻叫喚の世界でした。見渡すと、あたり一面に死体が横たわっており、折り重なって死んでいる人もいました。幼子を連れ、頭から血を流した若い母親や頭から下が土砂に埋まっている兵隊。向かいの川に飛び込んだ人もいました」
この日の空襲で、吉富玲子さん(85)=東大阪市=は母と兄を亡くした。当時13歳。「15日に姫路の連隊に入隊せよ」という召集令状を受けた兄を、母と大阪まで見送りに行く最中、空襲のため京橋駅に下車させられた。突然の爆音とともに駅舎は吹き飛ばされ、吉富さん母子は生き埋めとなる。大きな石や柱の下敷きになり、「玲子、玲子」と呼ぶ母の声はやがて聞こえなくなった。
吉富さんは戦災孤児として戦後を生き抜いた。「なんで一人だけ助かったのやろ。あのとき母と一緒に死んでいたら、と思うこともありましたよ。今でも一年で一番泣く日です」(矢野宏・新聞うずみ火)
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