◆測定の遅れが改善阻む
これはじつは全国的な問題で、総務省からも環境省が改善勧告を受けていることだ。
空気中のアスベストを測定するには、まず空気をポンプで引き込み、フィルターに空気中のほこりを吸着させる。そのうえでフィルターを位相差顕微鏡などでみてアスベスト繊維がないかどうか探す。一定数観察し、なければ飛散なしと判断することになる。そのため、現場における測定で2~4時間(公定法だと4時間)試料採取し、それを分析機関に持って帰って顕微鏡でみるため、移動時間に加えて1時間程度が必要だ。そのため、移動時間を無視しても測定結果が出るまで最速で3~5時間は掛かる計算となる。
多くの自治体では試料採取後、民間の分析機関に依頼するため、結果が出るまで数日、下手をすると1週間程度かかることが少なくない。自前の研究施設で分析している場合も翌日という場合が少なくない。たとえば名古屋市では2013年12月地下鉄・六番町駅の構内で1リットルあたり710本という高濃度のクロシドライト(青石綿)の飛散が測定結果により判明したのは試料採取の翌日だ。
午後には結果を出すという兵庫県の取り組みはその意味ではほぼ最速といってよい。
欧米では現地に測定・分析の技術者が常駐し、空気サンプルを採取してすぐ顕微鏡で観察して結果を出し、漏えいなどがあれば即座に対応できるようにしている。その点、日本ではそもそもアスベスト濃度測定が義務化されておらず、条例などで位置づけている場合でも、そうした迅速な測定まで求めていない。
その結果、自治体側で測定をしてアスベストの飛散を確認しても、分析結果が出た段階で工事が終わっていて、改善もできないといったことが繰り返されている。
実際1月に埼玉県が発注した旧県立学校の煙突からアスベストを除去する工事で、周辺に1リットルあたり13本のアモサイト(茶石綿)を飛散させていたことが判明。この事故では、指導権限を持つさいたま市の測定で発覚したが、結果が出たのが翌日だったため、すでに工事が終わっていて改善指導もできなかった。あげく県は事業者の測定ではアスベストが検出されなかったとして県工事での飛散を否定。
すでに養生も片付け始めていたため、原因究明もできないままとなった。
一部の分析機関ではクルマに顕微鏡などを積み込んで、現場ですぐ分析までできるサービスを提供しているが、とりわけ自治体もそこまで迅速な分析を求めていないため、そうした手法が定着していないのが実状だ。
小坂氏らが兵庫県で採用した測定・分析の手法は、現場の改善まで考えれば当然の方法ではあるが、いまでもほとんどの自治体では採用できていない。
兵庫県では現場レベルで20年前に課題を把握し、独自に対応してきたことがいまだに国レベルでは規制や運用などに反映されず、ずさんな工事を野放しにしている。(下 続きを読む>>)【アジアプレス/井部正之】
>>>分析技術者に聞く(下)~「除去工事の49%で飛散」と環境省委員が衝撃報告(井部正之)
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