中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が開催した6月24日の集会で、アスベスト除去工事を1990年代から監視してきた元兵庫県公害研究所の分析技術者、小坂浩氏(建築物石綿含有建材調査者協会理事)が現場の実態を語る2回目。衝撃のデータが示された。(井部正之)

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が開催した6月24日の集会で建築物石綿含有建材調査者協会の小坂浩理事が講演中に示した
2010年度以降の環境省調査におけるアスベスト飛散データ。漏えい率はじつに49%に上る(撮影:井部正之)

◆アスベスト飛散の法則性
1990年代に兵庫県が独自にアスベスト除去工事で測定を実施するようになり、小坂氏はその当初からかかわってきた。手探りで始めたアスベスト測定だったが、数をこなすうちにアスベストの飛散事故に一定の傾向があるとわかってきたという。

「いろいろやっているうちに問題があるのは(アスベスト粉じんを除去する)負圧除じん装置だと。きれいな空気を出すはずのところなんですが、そこが問題だとわかった。それから(作業員が現場に出入りする際、防護服や防じんマスクを着用したり脱いだりする)セキュリティの入口が問題だとわかった」(小坂氏)

アスベスト除去現場では現場をプラスチックシートで密閉し、中に設置した負圧除じん装置で空気を吸って、アスベスト粉じんを除去し、きれいな空気を外部に排気する。そうすると除去現場内は減圧される。ひたすら減圧したら、中の空気が薄くなりすぎて窒息しかねないので、作業員が出入りするセキュリティの入口を開け、そこから空気を中に取り込む。

「負圧除じん装置からは、本来ならきれいな空気しか出てこないはずなのに、実際にはここからアスベストが出てくる」(同)

これは負圧除じん装置に使用するアスベストを除去するフィルターがきちんと設置されていなかったり、装置の隙間ができてしまっていたりといったことが原因。その結果、きちんとアスベストが除去されず、外部にアスベストを漏えいさせることになる。

具体例として、クリソタイル(白石綿)が天井に吹き付けられた建物の除去工事で測定した際、現場では使われていない茶石綿が検出したといったことを挙げる。これは除じん装置内にたまっていた以前の現場の茶石綿が漏えいしたといった事例だろう。

セキュリティからの漏えいは負圧が弱かったり、エアシャワーで作業員が十分アスベスト粉じんを除去しないまま外に出たりといったことが考えられる。

これもいまだ全国的な課題である。上記の名古屋市・地下鉄の飛散事故もそうした除じん装置の問題が指摘されている。ようやく2014年に大気汚染防止法と労働安全衛生法石綿障害予防規則が改正され、除去工事の開始前に負圧除じん装置の簡易的な漏えい検査が義務づけられたが、どの程度そうした簡易検査が機能しているのかは不透明だ。実際、埼玉県発注の工事ではそうした簡易検査を経てもアスベストの飛散が見つかっている(県は飛散を否定)。
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