網をひく漁師。船に動力はなく、長い竿で川底を押して船を操る。(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River,Mali 2016、撮影 岩崎有一)

ニジェール川は、平穏だった。

網を投げて魚をとる漁師を乗せた丸木舟や、木材を運ぶ運搬船、そして、私が乗船したような客船など、ニジェール川の船の往来は絶え間なく続く。船上の人々は、スマートフォンを見つめたり、沸かしたお茶をすすったり、食事をほおばっていたり。すれ違う船のそれぞれの船上に、マリの人々の日常を見た。ゆったりと流れるニジェール川と、その川面と両岸に広がる人々の暮らしを見ていると、スマホを除けば、この風景はきっと、数百年前と何も変わっていないのだろうと感じられてくる。

「マリ北部の状況を、自分の目で確かめてきてください。あなたに神のご加護を。」

乗客からかけられた声に静かに奮いたち、私は目的地のヤフンケで船を降りた。

野生動物が草を食む光景も、紛争地の惨状も、新進のビジネスに沸く状況も、祭りで音楽を奏でる様子も、アフリカを構成する幾千もの風景の一部分にすぎない。とかくひと括りに語られがちだが、アフリカは実に多様だ。東西にも南北にも8000kmにわたるアフリカ地域を、総(す)べて語ることは難しい。

しかしまた、そんなひと握りのアフリカの風景をいくつも重ね合わせていけば、アフリカの全体像に近づくことができるはずだと、私は思っている。

アジアプレス・ネットワークでの「ひと握りのアフリカ」、再開します。(岩崎有一)
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<岩崎有一/ジャーナリスト>
アフリカ地域に暮らす人々のなにげない日常と声と、その社会背景を伝えたく、現地に足を運び続けている。1995年以来、アフリカ全地域にわたる26カ国を訪ねた。近年の取材テーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」など。Keynotersにて連続公開講座「新アフリカ概論」を毎月開催中。2005年より武蔵大学メディア社会学科非常勤講師。

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