◆クルド自治区~治安は良くても生活は厳しい
イラク・クルド自治区とその周辺地域では9月25日、自治区の独立を問う住民投票が行なわれた。投票を憲法違反とするイラク中央政府は、空港国際線の運航停止措置をとり、問題が拡大する様相を見せている。中央政府はこれまでにも自治区の予算割り当て削減をするなど、政治的な対立が続いてきた。賛成多数となった住民投票の結果を受けて、「自治区独立」への動きが加速すれば、緊張が高まり、市民生活に影響が及ぶことも予想される。【アルビル・玉本英子/アジアプレス】
アルビル市南部のクラニ・マフムールの市場。野菜から衣服、生活用品まですべてが揃う。食器販売店のマルワンさん(22)は、「客は店に入っても、まず買わない。住民投票の実施が決まった6月あたりから、経済状況の悪化を懸念してか、市民はお金を使わなくなった」と話す。
2003年のイラク戦争後、クルド自治区は「イラクの安全地帯」ともいわれ、外国企業から多くの投資が入り、アルビルは大都市へと変貌した。しかし原油価格の下落や、2014年の「イスラム国」(IS)によるモスル制圧などをきっかけに、外国企業の撤退が相次ぎ、経済は低迷している。
イラク政府はクルド自治区が石油を独自に国外企業に売っているなどとして、自治区への割り当て予算を制限してきた。自治区が独立を問う住民投票実施を発表してからは、さらに財政配分の締めつけが強まった。
高校管理職のナズさん(48)の月給は170万ディナール(約15万円)だったが、この2年近く4割しか受け取っていないという。公務員への給与分の予算が特別会計庫に供託され、一部しか支払われていないからだ。「住民投票ではクルド独立に賛成票を投じたものの先行きへの不安はぬぐえない。同僚はみんな同じ気持ちと思う」と話す。家族の誰かが病気でもしたら医療費が払えず生活が破綻するかも、と顔を曇らせた。
自治区では公務員として働く就労者が多く、長期におよぶ給料未払いは市民生活に大きな影響を与えている。中央政府が今後、締めつけを厳しくすれば、自治区の経済に深刻な打撃となる。
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