◆「国内避難民より生活は厳しい」の声も
市内北部のクーラン地区は、色褪せたコンクリートブロックの家が立ち並び、低所得者が多い。自動車修理工場で働くアブドゥルラハマンさん(35)は「今日の客はゼロ。収入は安定せず、来月の家賃の支払いのことを考えないと」と頭を抱える。
それでも家賃が安いクーラン地区には、ISとイラク軍の戦闘から逃れ、モスルなどからたくさんの避難民が身を寄せていた。アブドゥルラハマンさんは、近所の避難民から余った支援物資を安い値段で譲ってもらい、やりくりしてきたという。「彼らには支援物資があるから最低限の生活はできる。でも、特別な支援もない自分たちはどうすればいいのか」。
不安な表情を見せながらも、彼はこう言葉を続けた。
「モスルからの避難民は、家を破壊され、家族を殺された。ここは治安が安全なだけまだマシなのかもしれない」。
イラク西部のアンバルから3年前に家族とともに地区に避難してきたアラブ人女性ヒタンさん(22)は、クーラン地区の住人だったクルド人ゼレクさんと知り合って結婚した。「アラブ人、クルド人とかで分けるのは政治的な人たちのことで、僕たちには関係ない、と言ってくれたのが嬉しかった」と話す。住民投票が国民を分断し、新たな対立の火種になることを懸念している。
夫のゼレクさんはレストランで働いているが、客が来なくなり、いつ店がつぶれるかわからない、とため息をついた。
「住民投票で、すぐに独立するわけでもないのに、中央政府は今後、さらに対抗措置をとるのでしょうか。そんなことをしても自治区の権力者には何の打撃もない。まず生きていけなくなるのは私たち一般市民。ここで苦しんでいるのは避難民だけではないことを世界は知ってほしい」。【玉本英子】
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