被害者団体が5月18日、厚生労働省に対し、国に賠償金支払い義務がある石綿工場の元労働者らに個別に呼びかけるよう求めたが、同省は「誤解や混乱を招く」と拒否し続けた。写真は国に対する要請後、国の対応の不誠実さを記者会見で訴える「泉南アスベストの会」の山田哲也会長(井部正之撮影)

厚生労働省は10月2日、過去にアスベスト(石綿)関連工場などで働いて中皮腫などの健康被害を受けた元労働者やその遺族に対し、賠償手続きのため国を訴える訴訟を起こして欲しいと呼びかける文書を個別に郵送すると発表した。この「個別通知」について、メディア各社は「異例の対応」「異例の呼びかけ」と半ば厚労省を持ち上げるかのような報道ぶりだ。しかし、実態は大きく異なるうえ、重要な事実が抜け落ちている。(井部正之)

◆3年遅れの「呼びかけ」

「(報じられているのと経緯が)ぜんぜん違いますね。最高裁判決からずっと国に被害者の掘り起こしを求め続けてきた。ようやく国がやるべきことに手を付けたというだけ」

こう話すのは泉南訴訟の元原告や遺族らでつくる「泉南アスベストの会」の山田哲也会長だ。

最高裁判決というのは、2014年10月の大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟最高裁判決。これにより、アスベスト工場の元労働者らに対する国の賠償義務が確定した。その結果、同最高裁判決後、厚労省は同様の被害者が国に対して国家賠償訴訟を起こし、「一定の要件」を満たしていれば、国が速やかに和解に応じて最大1300万円の賠償金を支払うことを表明するにいたった。

「一定の要件」とは被害者が1958年5月26日~1971年4月28日までの間に工場で働いてアスベストを吸い、中皮腫などの健康被害を受けたことなど。工場に直接勤務していただけでなく、アスベスト工場に出入りする運送業者などに勤めて中皮腫などを発症した元労働者も対象になり得る。

最高裁判決から2カ月後の2014年12月には、厚労省の塩崎恭久大臣が泉南の被害者らを訪問し謝罪した。その際、国側は同様の被害者たちに対し、賠償手続きするよう「周知徹底に努める」ことを含む和解条項に合意している。

冒頭で紹介したように、泉南アスベストの会の山田会長らは3年前の最高裁判決直後からきちんと被害者に賠償手続きを知らせるよう求めてきた。ところが、厚労省がこの間実施した周知活動は病院や自治体にポスターを貼ってもらったり、リーフレットを置いてもらうだけ。同省は労災保険の受給者名簿など、該当者をある程度絞り込めるいわば「被害者リスト」に近い資料を持っているが、直接被害者に知らせてこなかった。
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