◆「天災 あきらめよ」
同日、夕刻が近づく東京・荒川河川敷。「関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会」「一般社団法人ほうせんか」による追悼式に大勢の市民が集った。ここでの追悼式は36回になるという。
94年前、避難者であふれたこの河川敷に流言が広がり、自警団が結成され、朝鮮人虐殺がはじまった。軍隊も出動、土手に機関銃を据え次々と朝鮮人を撃ち殺したという。
「ほうせんか」理事の西崎雅夫さんは「当時の日本政府が実態を隠蔽してしまったので犠牲者の人数、氏名、遺骨の行方などほとんどわからない。そのため遺族はいまでも遺骨を探し続けている。遺族にとってこの事件は終わっていない。終われない」と話す。
法政大学准教授の愼蒼宇(シン・チャンウ)さんは在日3世。複数の親戚がここで自警団に襲われ重傷を負った。その一人、祖父の長兄、昌範(チャンボン)さんは克明な手記を残している。瀕死の状態で警察の死体置き場に放置された昌範さんは、死体の山から弟に探し出された。傷の手当ては受けられなかった。10月末、署の留置所から病院に移される際、訪ねてきた朝鮮総督府の役人は「このたびのことは天災だと思ってあきらめるように」と告げたという。
「このくだりを読んで思わずうめいた。人災である虐殺を、結局、一般的な天災という言葉で閉じ込めようとする。小池知事が文章を送るのをやめた理由と同じだった」と愼さん。
関東大震災の朝鮮人虐殺をテーマにした「九月、東京の路上で」(ころから)の著者、ノンフィクション作家の加藤直樹さんはこう懸念を示す。
「小池知事は『虐殺否定論』を否定していない。虐殺の歴史を隠ぺいしようとする勢力が動いていて、その中に知事の『メッセージ問題』もある。今後は都の記念館の展示物を撤去させたり、追悼式典をやりにくくさせたりして、有名無実化させようとする動きが起こるかもしれない。今回のことは始まりに過ぎない」(了)
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