シリア難民で元アラブ紙特派員のフェルハッド・ヘンミ記者(31)は家族とともにシリア・コバニから脱出、ヨーロッパを縦断し、親戚 のいるドイツにたどり着いた。そこで難民申請し、施設に収容され審査ののち、アパートを割り当てられ新たな生活が始まった。今の暮らしについて、電話でのインタビュー記事を、今回アーカイブとして掲載する。聞き手:玉本英子】
(※2015年初出のアーカイブ記事。情報等は当時のまま)

◆「幼い娘たちの明日の命の心配をしなくてよくなったことに感謝」
施設で審査を終え、私たちは、行政当局からアパートを割り当てられました。難民専用住宅ではなく、一般のアパートです。2部屋で小さな台所があり、 いつもシリア料理をつくっています。遠くでなければ自由に外出できます。今、仕事を持っていないので、スーパーマーケットに行くぐらいです。

行政からは、2週間ごとに200ユーロ(約2万5000円)を受け取っています。妻と幼い娘2人で、なんとか食べていけます。何よりも砲弾が飛んでくることはないのです。明日の命を心配しなくていい。私たちを助けてくれた人びとや政府、行政機関には心から感謝しています。

シリア・コバニから脱出したフェルハッドさん一家。ドイツ西部にたどり着き、収容、審査を経て、アパートを割り当てられ新たな生活が始まった。写真はフェルハッドさんの妻と娘たち。(フェルハッドさん撮影:2015年9月)
シリア・コバニから脱出したフェルハッドさん一家。ドイツ西部にたどり着き、収容、審査を経て、アパートを割り当てられ新たな生活が始まった。写真はフェルハッドさんの妻と娘たち。(フェルハッドさん撮影:2015年9月)

 

私は英語が話せるので、近所のドイツ人たちとは英語でコミュニケーションをとります。かれらは親切で今のところ差別などは感じません。とくに私の子どもた ちには優しくしてくれ、おもちゃなどを頂いたりしました。食事に呼んでもらったりもしました。私たちは、ドイツ料理は初めてなので戸惑いますが、感謝の気 持ちでいっぱいになります。ただ、難民の多くは、ドイツ語はもちろんのこと、英語もできないので、地元の人たちと頻繁に付きあうことはないようです。文化 や習慣も違うのでストレスを感じている人もいると聞きます。

この地区にはシリア人以外の難民もたくさんいます。アフリカからではナイジェリア人が多い。ほかにはアルバニア人もたくさんいます。ISの暴力の被 害者としては、シリア人のほかに、イラク人もいます。彼らも私たちと同じように住むところを失い、逃げてきた人たちです。私はイラク人にも同情をおぼえま す。

「欧州にたどりついた難民の中にISのメンバーがまぎれこんでいる」という報道があります。残念ながら事実だと思います。私は、顔つきや外見などを 見れば、怪しい人物かどうかというのが大体わかります。前に「シリアからの難民だ」と言って行動していた男と話をしたことがあります。彼はモロッコ人で、 話ぶりからISの関係者だったと感じました。

このことは私たちにとって大きな問題です。私たち家族はドイツで難民として受け入れてもらい、幼い娘たちの命をつなぐことができました。なのに、私 たちにとっての「敵」であるISも、この難民受け入れ制度を悪用して、どさくさまぎれにドイツに入り込もうとしているのです。実際に不審人物を発見するた めに、難民たち自身がグループを作って動いています。私も参加しようと思ったほどです。非常に怒りを感じています。

一握りの悪人のために、多くの難民の子どもたちが締め出されるようなことはあってほしくないと思います。(つづく)

ドイツ連邦政府のサイトでは「政治的迫害や内戦から逃れ、庇護を求めることは権利」と、ドイツの難民政策が説明されている。一方で、急増する難民のなかでドイツ社会への定着と社会参加が課題となっているほか、難民にまぎれて犯罪者や過激主義組織のメンバーが入り込んでいる問題からドイツ国内には現行の難民受け入れ政策に反発する声も出ている。(写真は連邦政府サイトから)
ドイツ連邦政府のサイトでは「政治的迫害や内戦から逃れ、庇護を求めることは権利」と、ドイツの難民政策が説明されている。一方で、急増する難民のなかでドイツ社会への定着と社会参加が課題となっているほか、難民にまぎれて犯罪者や過激主義組織のメンバーが入り込んでいる問題からドイツ国内には現行の難民受け入れ政策に反発する声も出ている。(写真は連邦政府サイトから)
ドイツの「移民・難民局」は入国した難民向けに庇護申請手続きの手順を説明したパンフレットを各言語で作成し配布している。写真はクルド語パンフ。申請が認められた難民には、ドイツ社会に定着できるよう言語習得、職業訓練、社会参加などプログラムも組まれている。
ドイツの「移民・難民局」は入国した難民向けに庇護申請手続きの手順を説明したパンフレットを各言語で作成し配布している。写真はクルド語パンフ。申請が認められた難民には、ドイツ社会に定着できるよう言語習得、職業訓練、社会参加などプログラムも組まれている。
メルケル・ドイツ首相は「2016年新年のメッセージ」で、難民の支援に取り組んだ市民や警察官、兵士に感謝の言葉を述べ、「難民は明日のチャンス」と説明した。(連邦政府サイトから)
メルケル・ドイツ首相は「2016年新年のメッセージ」で、難民の支援に取り組んだ市民や警察官、兵士に感謝の言葉を述べ、「難民は明日のチャンス」と説明した。(連邦政府サイトから)

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<<<(1)「私はなぜ家族と国境を越えたのか」シリア人記者語る  
<<<(2)トルコ西部の海沿いの町~ヨーロッパ目指す難民たち
<<<(3)ギリシャの島に漂着~携帯GPS頼りに村めざす
<<<(4)ギリシャに殺到する難民、極度のストレスも
<<<(5)なぜ私はドイツを目指したのか
<<<(6)ハンガリー、オーストリアを越えドイツに

>>>(8)シリアの今後はどうなるのか
>>>(9終)「豊かさを求めて難民になったのではない」

 

 

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