断崖が続く喜望峰、味も景観もすばらしいワイナリー、手軽に楽しめるサファリツアーなど、南アフリカ共和国(以下南ア)の観光資源は枚挙にいとまがないが、南アの魅力は自然美だけではない。様々に異なる人々が共に暮らす姿もまた、この国を特徴付ける大切な魅力のひとつだ。南アの多様さを確かめたく、2つのコンサートを訪ねた。(岩崎有一)

ドラケンスバーグ少年合唱団学校の入り口。看板下には、水曜コンサートの告知が見られた(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

3千メートル級の山々が南北に連なる、南ア東部のドラケンスバーグ地方の街ウィンタートンは、ドラケンスバーグ少年合唱団の寄宿舎があることで知られている。合唱団と言えばウィーン少年合唱団が有名だが、ドラケンスバーグ少年合唱団は、1992年の世界少年合唱団フェスティバルで最優秀賞を獲得したほどの実力を持つ。創立は1967年。歴史のある合唱団だ。

ここで寝食と学び舎を共にする100名を超える10〜15歳の少年たちはすべて、オーディションを経て入校している。南ア国内だけでなく、イギリスや韓国など、海外からドラケンスバーグを目指してきた少年も見られた。

少年たちが日々を過ごす寄宿舎の部屋。コンサートのための衣装がかけられていた。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

寄宿舎での生活は、朝6時の起床から21時半の消灯まで、スケジュールがきっちりと組み立てられている。合唱の練習に充てられる時間は、ルーティーンにおいては1日あたり2時間ほど。そのほかの時間は、一般の学校と同じく、学業に専念している。ドラケンスバーグ少年合唱団学校は、プロの声楽家や音楽家を養成する学校ではなく、あくまでも心身の育成を念頭に創立された学校だ。卒業生の進路は多岐に渡っており、必ずしも音楽の道に進むわけではなく、学校としてそれを奨励することもない。

実は、このドラケンスバーグ少年合唱団学校は、当初から合唱団を編成していたわけではない。創立時は、一般の学校生活に適応できない子どもたちが集い、寝起きをともにしながら社会性を学んでいく学校だった。合唱を始めるまでは、学業以外の時間は、乗馬を学んだり、畑を耕したりすることに充てられていた。
創立の数年後、協調性と社会性を学びつつ達成感も得られることから、同校は合唱に着目。以後、合唱に特化した寄宿舎として、その名が知られるようになっていった。

現在は、前述のように、国内国外から歌のオーディションを受けに来る少年が後を絶たない。その倍率たるや、30倍を超えるほどの難関だ。今や、名実ともに、世界に名だたる少年合唱団学校となった。
周囲にドラケンスバーグ山脈をいただく同校の敷地は広いが、建物はコンパクトにまとめられている。校内を歩いていても、音楽向けの教室が多めにあることと、時おり歌声が聞こえてくること以外には、合唱団学校であることを強く感じさせられることはない。
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