レンタカーの受付の女性が驚いていたのは、外国人が訪ねることすら珍しいカエリチャを、「滞在先」として私が書面に記したからだった。
「ちょっとちょっと、この人ひとりでカエリチャに行くんだって。今からひとりでレンタカーでカエリチャに行って、カエリチャに泊まるんだって!」
受付の女性は周囲のスタッフに声をかけまくり、あっという間に4人のスタッフが集まってきた。中には、カエリチャに住んでいる人もいた。
「外国人がタウンシップに?」「カエリチャにようこそ」「タウンシップにホテルがあるの? こっちがびっくり」「勇気があるね」「カエリチャは実にいいところだよ」など、スタッフは皆、私のカエリチャ滞在を喜んでいるようだったが、「勇気があるね」と言われると、やはり引っかかる。
最初に声をかけた受付の女性に、「カエリチャは私には危ないのでしょうか」と聞いてみると、うーんと唸ったのち、「あんまりあれこれ言って、あなたを怖がらせたくないわ。とにかく、カエリチャはいいところ。楽しんできてね」と彼女は言う。
嬉しく感じつつもまるで安心できない声をかけられた私は、空港からカエリチャの宿までの道順をよくよく確かめ、車を走らせはじめた。15分ほど国道を走り、カエリチャの標識に従って左に折れると、低層の家屋が密集する風景が、眼下一面に広がる。久しぶりのマニュアル車を慎重に運転しながら、宿を目指した。
(つづく)
<岩崎有一/ジャーナリスト>
アフリカ地域に暮らす人々のなにげない日常と声と、その社会背景を伝えたく、現地に足を運び続けている。1995年以来、アフリカ全地域にわたる26カ国を訪ねた。近年の取材テーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」など。Keynotersにて連続公開講座「新アフリカ概論」を毎月開催中。2005年より武蔵大学メディア社会学科非常勤講師。
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