◆遅れた実態把握
牧さんが阪神・淡路大震災で障害を負った震災障害者を支援するNPO法人「よろず相談室」を設立したのは2007年3月のこと。本人やその家族が気軽に語り合う「震災障害者と家族の集い」を毎月第1日曜日に開いている。
生後2カ月で倒れてきたタンスの下敷きになって知的障害などが残った22歳の女性やピアノで頭を強打し、震災から6年後に「高次脳機能障害」と診断された36歳の女性もいる。
「震災が起き、多くの人が犠牲になる状況では『障害が残っても生きているだけましでは』という見方をされがちです。しかも、障害を負った人を誰も見ようとはしない。実態調査すら行われず、相談窓口もないのが実情です」
牧さんらの訴えもあり、兵庫県と神戸市は2010年度に震災障害者の実態調査に着手。障害者手帳の申請内容から少なくとも349人の震災障害者がいることが判明した。
とはいえ、障害の原因が「震災」と明記されていないケースも多く、実数は把握されていないという。牧さんらは厚生労働省を訪れ、震災障害者の把握につなげるため、身体障害者手帳の交付申請時の診断書・意見書の原因欄に「自然災害」を加えることを要請。これを受け、厚労省は4月末、自治体に通知を出した。障害の原因の記入欄には「交通」「戦傷」「先天性」など8項目だけだったが、その選択肢に「自然災害」が加えられたのだ。
震災障害者への支援はどうなっているのか。国から「災害障害見舞金」が支給されるが、対象は両目を失明するなどハードルは高く、生計維持者には250万円、それ以外は125万円と十分とは言えない。
熊本地震の影響で心身に後遺症が残り、新たに障害者手帳を取得した震災障害者を熊本県と市に尋ねたが、すぐに回答は得られなかった。数時間後、県から「1月1日現在で5人」(熊本市を除く)、市からは「6月21日現在で12人」という調査結果を教えてもらった。とはいえ、この数字は氷山の一角である。担当者も「地震が原因で後遺症が残った人が他にもいると思います」と話していた。
震災障害者の存在を「生きているだけでましではないか」という言葉で覆い隠しているのは誰なのか。私たちは震災にいつ、見舞われるかわからない。決して他人事ではない。
牧さんは「震災障害者の中には今もつらい思いをしている人もいる。国や自治体に支援を訴えていきたい」と語った。(終わり)