昨年11月以降、遭難して日本の沿岸に漂着する北朝鮮漁船が相次ぎ、遺体も数多く発見された。2018年1月15日までの漂着船は80超、遺体は33体に上る。北朝鮮の東海岸から出漁したイカ漁船であるが、漁民が遭難して死亡・不明になっても、残された家族には保障がない実態が分かった。昨年8月まで咸鏡北道道清津(チョンジン)市の水産事業所に勤めていて脱北した男性が証言した。(石丸次郎)
◆漁民は契約、3万円超の収入も
この男性が所属していたのは、清津市にある朝鮮人民軍の総政治局傘下の水産事業所のひとつで、イカ漁船約35隻が所属していたという。
男性によれば、事業所の所長は一定の「看板料」を払って、総政治局所属傘下の事業所として登録。民間の個人の船主と契約してイカ漁を外注する。船主は乗船する作業員を、条件を提示して募集する。ほとんどの場合、船主は船長を兼ねて共に出漁するという。
男性によれば、「5トン級の木船の場合、乗船する作業員は普通5人で7トン級は10人ほど。乗船する作業員一人当たり水揚げの7%程度を渡す約束でした。船や油、漁具は船主が準備します」という。
日本海のイカ漁は一度の出漁は二週間ほどで、たくさん獲れると、作業員一人当たり中国元で2~3000元(約3万4000~5万1000円)の収入になることもあるという。
イカ漁シーズンは概ね6-10月。船長も漁民も、稼ぎのために小さな木造船で繰り返し無理をして遠くに出漁するため、エンジン故障や悪天候で遭難する事故が多発する。
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