4月27日に板門店で行われた金正恩-文在寅会談は世界に生中継で伝えられた。一方で、北朝鮮の人々が、今どんな暮らしをしているのか? 望みは何なのか? ほとんど伝えられることはない。3月後半、北部地域に住む40代のシングルマザー・金ミオクさん(仮名)にロングインタビューした。娘を育てながら懸命に働く金さんの日常、夢、為政者への思いをシリーズで紹介する。(石丸次郎/カン・ジウォン)
◆商売上手で高収入
――自宅から今電話している場所までどうやって来ましたか? 検問はありましたか?
金 はい。車に乗ってきました。検問所が二か所ありました、最近検閲が非常に厳しいです。隣の郡に行くのも取り締まりがあります。
――今、この対話は録音しています。
金 分かっています。とにかく私に不利にならないように、ばれないようにしてください。
――商売をしているそうですが、市場で何を売っていますか? そして一か月の収入はいくらぐらいですか?
金 靴を売っています。中国産の高価な靴です。最近は商売があまりよくありません。季節の変わり目で(品変わりするため)毎日稼ぎが異なります。
――収入は一か月にどれくらいですか?
金 一か月に3000中国元(約5万円)くらい。商売がうまくいった時は5000元程度稼ぐこともありますが、めったになくて通常は3000元程度です。売り上げではなく利益です。
――稼ぎますねえ。市場で商売をする他の人たちも、それくらい稼ぎますか?
金 工業品、靴、オートバイ付属品のようなものを扱う人は稼ぎますが、(市場で)小さな商売をしている人は一か月の収入が1000~1500元程度です。
注 1中国元は約17円。北部地域一帯では、実質的な基軸通貨は中国元となって久しい。
工業品とは市場で販売が許される簡単な電気製品や一般向け軽工業品のこと。
――なるほど。ご主人の収入はどの程度でしたか?
金 あの人は収入が無かったんです。国が(国営企業の勤めには)給料を出さないのに、どうやってお金を稼げますか? 朝鮮では女たちが昼も夜も市場で商売して稼ぐのです。夫は仕事もせずに家にいました。
注 金さんは夫と離婚している。北朝鮮では男性は商売行為が許されず、配置された職場への出勤を強要される。無断欠勤は処罰の対象になるため、職場に金を払って出勤したことにしてもらい、何か別の仕事をして稼ぎを得るケースが多い。
――最後に国が配給を支給したのはいつですか?
金 配給をいつ受けたかって? 記憶にないですねえ。1990年代かなあ…。
――当時は何を受け取りましたか?
金 トウモロコシです。あと大韓民国の米袋(支援米)を一度もらった記憶があります。2003年頃かな? 息子が赤ちゃんだった時に一度もらったような。
――今年の2月16日(金正日生誕日)に「特別供給」はありましたか?
金 「特別供給」? 地区ごとに異なりますが、(食用)油を少しと、ズック靴をもらっただけ。でもあんな(粗末な)靴は、今や誰も履かないです。