コンサート初日の会場となるグリーンマーケット・スクエアは、普段はアフリカ各地の民芸品を並べる土産物店が立ち並ぶ広場だ。西アフリカの木彫りのマスクの隣に、東アフリカのビーズ細工が置かれていたりと、アフリカ土産の博覧会のような様相が続く。店員もまた、様々。西から北から東から、アフリカ各地からやってきた行商人が商売をしている。
この広場でのコンサートには、入退場口もなければ柵もない。誰もが自由に、無料で、ステージの公演を楽しむことができる。コンサート当日、50メートル四方ほどのグリーンマーケット・スクエアは観客で完全に埋まっていた。
もうひとつの会場となるCTICCは、アフリカ最大規模の国際会議場・イベント施設だ。ここでは、40を超えるアーティストとグループによる公演が夕方から深夜まで続いた。チケットは、ソールド・アウト。5箇所に別れた各会場とも、賑わいは相当なものだった。
観客席の様子を取材していた私は、アメリカ人ジャーナリストのマイケルが、柱に寄りかかっているのを見つけた。彼は、じっと目を見開いて、ただただ人混みを眺めている。
「どう? 取材は順調?」と、私が声をかけると、彼は興奮しながら感想を話した。
「見てくれ、この風景を。なんなんだ、この力みなぎる人々の雰囲気は。僕は彼ら(観客)のパワーに、ただただ圧倒されるばかりだよ。」
そう言いながらも、マイケルは観客にじっと目を向けたままだ。
「アフリカに来るのは、僕は初めて。ここに来るまでは、南アフリカといっても、貧しい格好をして、大変な暮らしをしている人ばかりなのだと思っていた。でも、この会場には、生きることを楽しんでいる人しかいない。彼らのパワーに、ほんとうに驚いている。」
観客に目を向けならが、マイケルはさらに続けた。
「見てくれ、この風景を。ここでは、黒人も白人も、アジア人も、あらゆる種類の人々が混じりあって、同じコンサートを楽しんでいる。こんな風景を、アフリカで見ることができるなんて、思わなかったよ。これだけ異なる人種が同じ場所に集まっていても、何も問題が起こっていない。僕はアメリカ人だけど、アメリカでも、こんな風景はなかなか見ることはできないんだよ。なんなんだ、南アフリカは。なんなんだ、この風景は。どうして、こんなことが可能なんだ?!」
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