2014年8月、イラク北西部のシンジャルで大きな悲劇が起きた。過激派組織「イスラム国」(IS)が、シンジャル一帯の町や村を一斉に襲撃したのだ。住民の多くは、少数宗教ヤズディ教徒だ。ISは住民に銃を突きつけ、イスラムへの改宗を受け入れなかった男たち1000人以上を次々と殺害。3500人を超える女性や子どもを「戦利品」などとして拉致していった。
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ISによるシンジャル襲撃から一か月後、私はイラクに入った。シンジャルとその一帯はISが支配を固め緊張が続いていた。殺戮からの逃れた数万のヤズディ教徒たちは、北東部のクルド自治区に逃れ、国内避難民となっていた。
一方、幹線道を閉ざされ、行き場を失った住民がシンジャル山に逃げ込んだ。炎天下の気温と途絶える食料のなか、息絶える老人や子どももあいついだ。山で孤立した住民は約1万といわれる。イラク軍、英米軍らの輸送機が投下した支援物資で命をつないでいた。私はシリア側からクルド部隊・人民防衛隊(YPG)に同行し、ISの前線地域を抜けて、シンジャル山に入った。
ISはシンジャル制圧直後、宣伝映像を公開。「ヤズディは悪魔崇拝の邪教」「イスラムに改宗した住民は手厚く保護」などと主張した。だが、脱出住民の証言では銃を突きつけ改宗を迫り、見せしめで銃殺。見せしめに首を切り落とすなどしたという。また逃げようとした住民も殺害されている。
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