◆結婚式で出会ったミルザ夫婦との再会「復讐のため、家族を養うため」とクルド兵に
シリア国境近くの荒れ地に広がる白いテントは数百を超えていた。シンジャルからの避難民のためにクルド自治区政府や人道機関が確保したものだが、数万もの住民が一気に自治区一帯に逃れてきたため、テントも物資も足りていなかった。建設途中のブロック建物にビニールシートを張って雨風をしのぐ一家も少なくなかった。
テントの場所を教えてもらうと、軒先からミルザが現れた。結婚式で出会った私のことを、はっきりと覚えていてくれた。その傍らに立つのは妻イヴァン。彼女の顔は深く沈み、目は虚ろだった。わずか1か月前に起きた集団殺戮。魂が抜けきったように見えた。彼女の父はシンジャルから脱出の途上でISに銃殺されていた。
このとき、妻イヴァンは身ごもっていて、臨月を迎えていた。「故郷をなくし、テント生活のなかで生まれてくる子どもが不憫でならない」。イヴァンはうつむいて、涙をこぼした。
それから半年後、私は再びミルザのキャンプを訪ねた。配給食糧に頼る過酷な生活は続いていたが、二人には女児が産まれていた。名前はチーマン。「あの日」の記憶を忘れないため、クルド語で「何もかも失った」という意味を込めて付けた名だという。
チーマンと呼びかけると、いっぱいの笑顔でほほ笑んでくれた。ヤズディを襲った悲劇のなかで産まれた新たな命。かすかな希望となってほしいと、私は願わずにはいられなかった。
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