初級中学3年用の英語教科書の表紙。 「銀河」ロケットが北朝鮮から宇宙に飛び立つイラスト。(アジアプレス)

<金正恩の新教科書を解剖する>記事一覧

二〇一二年から新体制に移行することになった北朝鮮政権は、新しい「指導者」の登場に合わせて、国内の様々な文献や表記の改定を推し進めた。無条件絶対の忠誠と服従を誓うべき対象が、金正日氏が死んで金正恩氏に代わったためであることは言うまでもない。政治スローガン、偶像化宣伝の看板、そして統治の最高綱領である「党の唯一的領導体系確立の一〇大原則」も、体制の主の交代を機に改訂された。教科書も同様であった。アジアプレスでは、韓国在住のある脱北者が独自のルートで二〇一六年六月に北朝鮮から搬出した教科書約八五冊を、デジタルデータとして入手した。金正恩時代の教科書とは、いったいどのような特徴があるのだろうか。独裁体制維持のための教育政策という視点から教科書を分析する。(ペク・チャンリョン/石丸次郎)

金正恩時代の教科書事情   石丸次郎

北朝鮮の義務教育は幼稚園一年、小学校五年、初級中学校三年、高級中学校三年の計一二年だ。アジアプレスが入手したのは、ほとんどが中学校教科書で、国語文学、物理、生物、化学、数学、歴史、英語、芸術、自動車、地理、漢文、革命歴史、社会主義道徳の一三科目だ(学年によって名称が若干異なる)。また、数冊の小学校教科書及び、英語教科書編纂委員会報告書、英語教授要綱、自然教授法のデータも入手した。二〇一三年五月から二〇一五年一〇月にかけて発行されたものだ。

また、まだ教科書は発刊されていないのだが、「敬愛する金正恩元帥様革命活動」という授業が始まっており、教師用の「教授参考書」のデータを韓国の市民団体「自由北韓放送」から提供を受けた。

北朝鮮の教科書は、国外への搬出が原則禁止されており、実質的に「秘密文書」扱いである。これまで、密かに中国に持ち出されたものが、韓国や日本に持ち込まれて、その一部が公開されてきただけで、全体像はよくわかっていなかった。
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