北朝鮮政権は、体制動揺に対する危機感から、あらゆる機会において、革命に対する献身、首領に対する崇高な忠誠と義理を道徳として強調しながら、帝国主義的思想と文化浸透の排撃という思想教養事業を推し進めた。こうした社会情勢の変化に合わせ学校教育も改定されたのである。
その大きな特徴を道徳教科書から探すことができる。現在の「社会主義道徳」科目の名称は二〇〇〇年代初頭までは「共産主義道徳」であった。〇二年に最後の「共産主義道徳」教科書が発行され、〇四年には「社会主義道徳」教科書となったことが確認できる。したがって、〇三年もしくは〇四年に科目の名称が変わったものと見られる。
旧ソ連・東欧諸国が崩壊してからは、理想主義的なイメージを持つ「共産主義」という表現よりも「社会主義」という表現を使う方が実用的であると考えたのかもしれない。教科書が「社会主義道徳」と名を変えてから五年後の〇九年四月に開かれた最高人民会議において、旧憲法に明記されていた「共産主義」という単語が削除された。あくる年の党代表者会議では、党規約からも「共産主義」が削除された。
「社会主義道徳」と教科の名を変えるとともに、教科書の構成内容も大きく改訂された。高級中学校用の道徳教科書の場合、題名を「社会主義道徳と法」に変え、刑法を教える項目を大幅に追加するなど、「遵法」についての教育内容が増やされた。また、帝国主義思想文化の浸透を排撃するための項目も強化された。政権崩壊の危険を未然に防ぎ、世襲権力の存続を図りたい北朝鮮当局の苦心が、「社会主義道徳」教育にそのまま反映されたものと見ることができる。(ペク・チャンリョン) 次の5回へ>>>
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