(1)一般的な礼節や倫理
学年別に特徴を見ると、小学校の段階では自己管理と学校生活規則の遵守、家族と友人、大人に対する礼儀など、初歩的な礼節と倫理教育が中心になっているが、初中、高中と進級するにつれ、集団と社会の中における礼節と倫理に重点が移る。とはいえ、イデオロギー的な内容と結び付けられた教材が多数登場する。小学校一年生の「社会主義道徳」教科書を例にとって紹介する。
イラストが多数使われた「私たちの生活と健康」という項目がある。健康管理について教える内容だが、視力を保護しようという内容の場面で、朝鮮人民軍兵士が米軍兵士を標的に銃を発射するイラストが出てくる。また、集団主義と協調精神を教える項目では、数人の子供が「アメリカ野郎」と書かれた雪だるまに雪玉を投げるイラストが描かれている。イラストの題名は「アメリカ野郎を一緒に懲らしめます」だ。いくら北朝鮮が反米を掲げているといっても、このような暴力的な表現が五~六歳の児童に良い影響を与えるはずがない。
また、北朝鮮特有の経済運営方式である各種の労働動員と物資供出に、積極的に励むように教える内容も含まれている。同じ小学校一年生の教科書の「わが家の自慢」という項目では、子豚が母豚の乳を吸う姿を見守る母子のイラストがある。
イラストでは母親が幼い息子に向かって、たくさんの子豚を指さしながら「人民軍のおじさんたちに、より多くの豚を送れるようになったね」と語る。豚を軍に供出することを人民にとっての美徳として教えているのである。
「うちのクラスには、良いことをした自慢があります」というイラストでは、子供たちが課題で集めた屑鉄を人民軍に供出する場面が描かれている。そこでは子供たちが戦車を思い浮かべているのだが、その背景には、子供たちが集めた屑鉄で戦車や砲を作り、「少年団」の名前で軍に寄贈するイベントが頻繁に行われていることがある。
一六年六月初頭、少年団創立記念日の行事に参加した金正恩は、祝賀演説において「…我が少年団員は、戦車『少年号』と飛行機『少女号』を人民軍に贈り、社会主義建設と国家の財政の力になった幼い愛国者たちだ」と称賛を送っている。
※少年団員には、「子ども計画」という名で各種物資の供出が課される。代表的な屑鉄、古紙、ウサギの皮などの供出は、すべての学校で行われるが、地方の学校の場合、特産物を供出の課題とする場合が多い。
また同教科書では、「家庭におけるもっとも大きな喜び」について紹介しているイラストがある。金正恩に熱狂的な歓呼を送っている少年団員と住民の写真を載せ、「夢ではないだろうか…」という説明を添えている。
金正恩の姿を前に、感極まって現実であることを疑うほど喜ぶ人々の様子を表現している。さらに金正恩から感謝や表彰を受ける子供や、ロケット発射に寄与した父、金正恩に花を捧げたがる子供の姿を描いて、「大きな喜び」の基準とはどのようなものかを教えようとしている。真っ白なキャンバスともいえる子供の情緒に「領導者崇拝精神」を注入しようという意図であることは疑いない。(ペク・チャンリョン) 次の6回へ>>>