◆死ぬまでに北にいる子どもに会いたい
6月の歴史的な朝米首脳会談から1カ月が過ぎた。非核化の問題だけでなく、朝鮮戦争終結に向けた対話が進められることになったが、まだ具体的で可視化された進展はない。冷戦構造最後の残滓が消えて軍事的な緊張は緩和に向かうのか。「漆黒の国」は開かれて光が差し込むことになるのか。当事者である北朝鮮の人と脱北者は、この歴史的会談をどう受けてとめているのか、話を聞いた。(石丸次郎)
韓国ソウルに暮らす金周一(キム・ジュイル 仮名80歳)さんは、日本の東北地方生まれの脱北者。貧しかった青年時代に社会主義に傾倒して、大阪で在日朝鮮人運動に没頭した。革命家を夢見て1960年代に帰還事業で北朝鮮に渡った。
「20代で血気盛んだった。でも北朝鮮は物質的にも精神的にもあまりにも落伍した社会で失望の連続だった。もう、北朝鮮でのことは思い出したくもないんですよ」
という。
製鉄所に配置された。労働に打ち込みながら学ぼうと、日本からロシア文学やマルクスの書籍を持ち込んだが、すべて没収された。5年前に脱北し、北朝鮮にいる子供と孫に密かに送金を続けている。金一族による支配への嫌悪は今も激しい。「国民は奴隷だ」と言い切る。
そんな金さんも、この数か月間の南北と朝米の対話の進展には大いに期待を寄せている。
「敵対関係が終われば、人の往来ができるようになるかもしれない。そうしたら、死ぬ前に北朝鮮にいる娘、息子と会えるかもしれない。金正恩も本気だろう。トランプ氏が会談をうまくやって北には変わってほしい」
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