◆徘徊する物乞いとコチェビたち
ジャンマダンでは目を覆いたくなるような光景も目撃した。飢えた人々である。3、4歳から中高生ぐらいまでの子供たちが、真っ黒に汚れた服をまとい食べ物を売る一角にたむろしている。
大人が食べているゆでガニの足が地面に落ちると、それにおそるおそる手を伸ばすのだが、大人もそれは譲らない。大人が食べ終わるのを待ち、カニの甲羅や足が放り捨てられると、子供たちは先を争ってそれに群がる。伸びる子供たちの手は何週間も洗っていないかのようにどす黒く煤け(すす)ていた。
足の不自由な男の人が一瞬の隙をついて飴を盗んで口に含むのも目撃した。売り手の女性は罵りながら、背後から蹴りを入れ何度も顔面を平手打ちした。パンや餅、飴をたらいに入れて売る女性たちは、盗みから大切な売り物を守るためにネットをかぶせて自衛していた。
ジャンマダンに何度か通ううちにわかったのだが、物乞い、拾い食いのために来ている子供たちは大体同じ顔ぶれで、50人ほどになろうか。一度見かねて、バンを10個買ってビニール袋に入れて、一番小さな子供にあげた。すると、その子は、
「取られてしまうからジャンマダンの外までついてきてほしい」
という。
喧噪から外に抜け出し、あらためてバンを入れた袋を渡すと、「チャルモッケッスムニダ(いただきます)」と挨拶をして小走りに立ち去ろうとした。ところが、突然現れた男に「おい待て!」と呼び止められ、袋は取り上げられてしまった。すぐに駆け寄った私に男はこう言った。
「私は安全員(警察)だ。なぜガキに食べ物を恵んだりする?パンは没収する」
見逃してくれるよう何とかその私服の安全員をとりなし、パンは子供の手に残った。自然発生したジャンマダンが当局の監督下にあるのを実感したできごとだった。(続く9へ >>)