◆変わり果てた農村風景

なぎ倒された家。奥の集落は土砂崩れに襲われた(広島県呉市中畑で撮影・栗原佳子/新聞うずみ火)

 

安浦地区は人的被害が集中した地域の一つだ。特に山あいの小さな集落が土砂災害に見舞われた。

通行止めが解除されたばかりの中畑地区へと向かう。段々畑は土砂や流木に押し流されていた。潰れた家屋、巨石、土砂に突っ込んだ車。奥の集落に目を転じると、上方の家屋は土砂に埋まっていた。農村風景に溶け込んでいたであろうバス停と待合ベンチもひしゃげ、野菜を直売する小屋も泥にまみれていた。

大野さんは相次いで友人2人を訪ね、それぞれ無事の再会を喜び合った。どちらも片付けの真っ最中だ。その一人、藤岡牧子さんは「6日の午後9時過ぎにはバリバリと音がして、窓の外を見たらもう何も見えないほどでした」と恐怖の時間を振り返った。

帰り際、大野さんが怒気をはらんだ声で言った。
 「国会やってる場合じゃないですよね。議員は地元に戻り、何が必要か聞いて回らねばならないのに」

◆急斜面に高齢者が半数

山上文恵さんは8期目になるベテラン市議。地元の両城地区は急斜面に家々が立ち並ぶ。急こう配の階段「200階段」は市の有数な観光スポットだ。

「ここでも1軒、宅地の面が崩れました。下の段の家を崩し、下の家の道をふさいでいます」。山上さんの案内で急な石段を上る。全壊した瓦屋根の家屋。その1段上にある2階建ての家は、地面がえぐりとられ、土台の半分が宙に浮くかたちで踏ん張っていた。
 住人は避難して無事だったという。豪雨が激しくなる中、山上さんも近くの避難所に避難した。「地域の判断で動くという状況でした」

軍都だった呉は、平地を海軍施設などが占め、住宅地が山地に造成された経緯がある。災害に対して脆弱で、両城地区は2001年の芸予地震でも大きな被害を出した。

「階段の町」の住民は半分が65歳以上。それだけに、この地域をとりわけ悩ませたのは断水だった。元の暮らしを取り戻す一歩を歩みだした被災地。この地域でも段階的に給水が始まり、山上さんもまずはほっとした表情だった。(了)

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