北朝鮮では、居住地域から他地域に行くためには、「通行証」が必要なことは述べた。さらに一般の「通行証」だけでは行くことのできない特別な地域がある。平壌市、豆満江・鴨緑江近くの朝中国境地域と、江原道、黄海南北道の軍事分界線地域だ。この地域に行くためには、通行証に加えて「承認番号」まで受けなければならない。
「承認番号」は、地域の保安署(警察)で付与するのではなく、中央の人民保安省から直接付与されるという。承認番号が書かれた証明書には、平壌(ピョンヤン)市行きには赤い斜線、国境地域には青い斜線が引かれているという。このような特別な証明書を、誰彼なく発給するわけがないのは当然だ。
中国に脱出しようとすると、とにかく「承認番号地域」に近づくかが重要になってくる。
「承認番号地域」に到達するまでを、北朝鮮難民の大部分の脱出ルートである咸鏡北道ルートで示してみよう。これまで取材した難民の証言を整理すると次のようになる。
◆鉄道を使って北上する場合
まず、咸鏡北道の道庁所在地の清津(チョンジン)市まで道路または列車で行くのが一般的だ。列車を利用する場合、通行証があれば別に問題ないが、通行証がない場合、列車乗務保安員(鉄道警察官)の取り締まりを避けなければならない。
駅のホームには通行証と乗車券を持っている者だけが入ることができる。したがって通行証のない者は、垣を乗り越えるか、線路伝いに構内に入って列車に無理やり乗り込むしかない。
南部地域から清津市まで行く途中には、何度か通行証検閲(検査)がある。通行証検閲は列車の最後尾と先頭から挟み撃ちするように始められる。
摘発された者たちは列車中央部に集められる。次に車内にある取り締まり部屋に入れられ手荷物検査と身体捜索を受け、列車から下ろされて鉄道駅の人民保安員(警官)によって「集結所」(後に詳しく述べる)に入れられる。集結所では身分を確かめて所属する職場に連れに来るように知らせる。それまでの期間は強制労働をさせられる。次のページ:移動する人々も通行証の検閲を当然予期している...