豆満江の中国側は延辺朝鮮族自治州の和龍、龍井、図們、琿春地区である。朝鮮族が多数を占める農村が少なくない。北朝鮮からの脱出者は、渡河に成功するとまずこの朝鮮族の村に入り助けを求めて扉を叩く。多くは目立たない夜半である。扉を開けると立っているのは、濡れそぼった粗末な服、日焼けして痩せこけ不安顔の同胞だ。
朝鮮族たちは、98年ごろまではとりあえず家に入れて食事を与え身の上話を聞いていた。ところが、中国当局の警備と取り締まりが厳しくなり、同じ民族の飢民に寝食を与えることが、罰金を科されるおそれがでてきたために、門前払いや居留守を決め込む家が増えている。
なんとか中国領に辿り着いた北朝鮮難民たちは、親戚や知人など頼れる人がある場合は、そこを目指し、あてのない場合は人口の多い都市部に向かっていく。
若い女性は売られていくケースが非常に多い。中国の警察に逮捕され北朝鮮に送還された場合、どんな過酷な処罰が待っているかを誰よりも熟知している難民たちは、目立たぬよう、息をひそめて潜伏生活を始める。これが、北朝鮮難民問題を見えにくくしている大きな理由である。
中国で北朝鮮難民たちがどのように潜伏生活を送っているかについては、次の章で詳しく述べるとして、北朝鮮に強制送還されると、どのような処罰が待っているかをまずみてみよう。(続く13へ >>)