◆送還されても北朝鮮を再脱出
韓国にすでに定着した人も含め、北朝鮮難民のなかに、強制送還された後再び、三度と中国に脱出してくる事例が増えている。2002年5月の「瀋陽事件」のキム・グァンチョル一家5人のうち4人も再脱出組だった。韓国の難民支援団体では、再脱出してくる率を30~40パーセントほどとみている。私も取材経験からそれぐらいだと推測している。
また、現在中国に潜伏中の難民の過半数は、1~2度の送還経験を持っている。これらの事実が意味するのは、次のようなことだ。
一度中国の生活を経験した北朝鮮難民のほぼすべてが、依然食糧が乏しく厳しい統制下の北朝鮮には、できることなら二度と戻りたくないと考える。また、強制送還されると北朝鮮での生活が以前よりさらに悪化するケースがほとんどだ。
中国での潜伏期間が長期間だった場合は、裸同然で生活を再開せねばならない。住む家を失っていたり、職場復帰がスムーズにいかなかったりする。さらに地域や職場で批判や監視に晒され、自分や子供の将来に絶望する。
こうして、ほとんどの強制送還者は、無事に娑婆に出られたら、生きるために中国への再脱出を目指すようになるのだ。送還されてきた人は当然監視対象になるが、送還者全員の行動を24時間見張ることなど不可能だ。
こうしてみると、再脱出に成功する30~40パーセントという率は、決して高いとはいえない。逆に60~70パーセントが再脱出できていないことを意味するわけだ。北朝鮮内の警備が厳しいためか、もしくは収監されているか、処罰の後遺症で身体を悪くしているかで、再脱出を望んでも出られない状況にあるとみるべきだろう。
北朝鮮からの越境自体は2000年以降激減している。朝中当局が国境警備を格段に強化していることがその一番の原因であるが、食糧事情も97~98年の最悪期に比べると改善されていて、脱出圧力を減じさせているようだ。また、送還者への厳しい処罰を見て恐ろしくて脱出を思いとどまるケースも多いという。
次章では、中国に脱出した北朝鮮難民がどのような潜伏生活を強いられているか、またどのようにして韓国入りを目指すかについて論を進めていきたい。(続く17へ >>)