◆自民党の赤池議員がトリック本もとに虐殺否定
ところがこの報告について「到底信じられません」と切り捨てた人物がいる。自民党の赤池誠章議員である。2014年9月1日付の「防災の日 関東大震災を考える」と題された彼のブログ記事で、そう書いている。
ところがその根拠は、「災害救助のために、ボランティアなど支援を惜しまない私たち日本人が… 根拠なき『流言蜚語』によって、多数の無辜の朝鮮人を虐殺した」などとは信じられない、というだけだ。さらに、中央防災会議の報告をあっさりと否定する一方で、工藤美代子『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』を「大変な労作、好著が出版されました」と賛美する。
さまざまなところで指摘してきたが、この工藤氏の本は「朝鮮人虐殺などなかった。デマだとされてきた朝鮮人暴動や井戸への投毒は事実であり、朝鮮人殺害は正当防衛だったからだ」と主張するトンデモ本である。
ネットに流布される朝鮮人虐殺否定論のほとんど唯一のネタ本だが、その内容は、流言をそのまま書いていた震災直後の新聞記事を証拠として無前提に示したり、工藤氏以外は誰も確認できない「後藤新平の一言」なるものを登場させて自説を補強したり、参考文献の名を挙げながらそこに書かれていないことを書くなど、初歩的なトリックを並べたものだ。
詳しくは私と友人たちが制作したサイト「『朝鮮人虐殺はなかった』はなぜデタラメか」をご覧いただきたい。
赤池氏は「以上が真実だとすれば」と一応前置きしつつも、「『朝鮮人虐殺』という自虐、不名誉を放置するわけにはいきません」「テロ対策の面からも学ぶ」べきだ、として工藤氏の本の内容を肯定し、さらに「政府は改めて事実調査をすべきだ」と結んでいる。話の流れを見れば、これは工藤氏の主張に立って中央防災会議の報告を見直せと言っているのに等しい。
実は、この赤池氏は自民党文部科学部会の部会長である。いわゆる「文教族」だ。そして今年3月、前川喜平前文部科学事務次官が名古屋市の市立中学校で行った講演に対して文部科学省が不当な介入を行った際、文科省にそれを促した自民党の議員2人のうち1人でもある。教育行政に強い影響力をもつ与党政治家が、心優しい日本人が虐殺などするはずがないという程度の「根拠」で虐殺否定論を受容しているのだ。恐ろしいことである。
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