◆民族差別が虐殺に至った日本史上最悪の事態
ところで昨年4月、内閣府のホームページからしばらくの間、この「1923関東大震災報告【第2編】」などが閲覧できなくなったという出来事をご存知だろうか。同月19日には、朝日新聞に「『朝鮮人虐殺』に苦情、削除/災害教訓の報告書/内閣府HP」という記事が掲載された。それによれば、担当者は取材に対して、削除の理由を「なぜこんな内容が載っているんだ」という苦情が多かったから、と答えたようだ。その後、抗議が殺到する中で、内閣府は報告の閲覧を全て復活させた。
内閣府には、文部科学省を含む各省庁からの出向組も多い。彼らを震え上がらせるような力を持った誰かが「苦情」をぶつけたということだろう。それが誰であるにしろ、近代日本の栄光に影を差す不愉快な史実を全て否定したいという欲望が、権力をもつ人々の間に蔓延しているのは確かだ。
「1923関東大震災【第2編】」の「おわりに」は、虐殺事件から受け取るべき教訓を以下のように記している。
「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要なのは改めて確認しておく。その上で、流言の発生、そして自然災害とテロの混同が現在も生じ得る事態であることを認識する必要がある」
前川喜平さんの言葉を借りれば、「あったことをなかったことにはできない」。民族差別が虐殺に至った日本災害史上最悪の事態として心に刻み、殺された人々を追悼し、事件の教訓を今後に活かす。その最低限の努力を、否定させてはならない。
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加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。
【書籍】 九月、東京の路上で ~ 1923年関東大震災ジェノサイドの残響