この2カ月余り、各地で自然災害が猛威を振るった日本列島。西日本豪雨で広島県内最大級の水害に見舞われた三原市本郷町、そして土砂災害で多くの家屋が倒壊した広島市安芸区の様子を振り返る。(矢野宏/新聞うずみ火)
◆ダム越えた土石流
広島市東部に位置する安芸区矢野東地区。豪雨から1ヵ月が過ぎた8月8日になっても、丘陵地に新たに作られた住宅団地「梅河(うめごう)団地」には、土砂災害で倒壊した家屋や流された車が残され、巨石や倒木がいたるところに散乱していた。
「速かったですよ。岩が滑る感じでドッと押し寄せてきて……」
約60戸の民家のうち20戸をのみこんだ土石流の恐怖を、北川恵子さん(65)が振り返った。ここで4人が犠牲になっている。
7月6日午後7時ごろ、携帯電話のアラームが何度も鳴っていた。避難勧告が出ていたのだが、携帯の画面に矢野東の地名はなかった。
「崩れるとは思っていなかったです」
北川さん夫妻はここで暮らして30年を超えるが被災した経験はない。しかも、今年2月には団地の裏山に県の「治山ダム」が完成したばかり。砂防ダムより小型とはいえ、災害時に土石流から人命を守る目的を兼ねている。「これで大丈夫」と安心感すらあった。
午後8時ごろ、突然「バキバキ」という大きな音がとどろき、停電になった。夫の精志さん(68)が懐中電灯を探していたら電気がつき、また消えた。
「危ないんじゃないか」「逃げた方がいいかも」
外で男性の声がした。「車が流れている。逃げた方がいい」――。
北川さん夫妻はあわてて外に出た。降りしきる雨の中、乗り込んだ自家用車は1メートル進んで動かなくなった。土石流が30センチほど積もっていたのだ。
歩いて避難していると、上から女性の声が聞こえた。
「家に木が飛び込んできた。みんな逃げてー」
団地の裏山で大規模な土砂崩れが発生していた。夫妻が避難した家の隣には、土砂崩れでなぎ倒された家の1階部分が流されてきたという。
「治山ダムは決壊しておらず、大量の土砂がたまっていたそうです。流れ込んだ土砂がダムを乗り越え、団地側になだれ込んだのでしょう」と北川さんは話す。
(終わり)