◆難民女性の悲劇
北朝鮮難民のなかで女性の占める割合は、60~70パーセントにもなると私は推測している。それは、中国に潜伏できる条件が女性に有利だからだ。「性」を代償に潜伏するケースが非常に多いのだ。もっとも多いのは、中国朝鮮族の農村に「嫁ぐ」ケースだ。
中国東北部の農村、とりわけ朝鮮族の農村は「嫁不足」が深刻な問題になっている。中国では改革開放政策が進む過程で、都市と農村の所得格差が年々拡大してきた。このため、農村の女性は職を求めて都市に出て、結婚相手を探すのが当たり前になっている。
生活が苦しい農家に嫁いでいくことを本人も親も望まない。その結果、朝鮮族農村には、3、40代になっても結婚相手が見つからない独身男性が溢れている。
このような状況のなかで、96年末ごろから流入しはじめた北朝鮮脱出者の若い娘たちは農村独身青年たちにとって嫁不足の穴を埋めてくれる格好の花嫁候補となった。彼女たちは、もちろん中国では不法入国者であり、存在が発覚すると北朝鮮に送還されてしまうし、匿った家も高額の罰金を科される。しかし、そんなリスクを冒してでも「難民花嫁」を歓迎する朝鮮族農家はごまんとある。親としては、何としても息子を結婚させたいし孫もほしい。だが、どこを探しても、農家に嫁ごうという若い女性などごくまれにしかいないのだ。
このような「需要」があると、紹介業が流行る。北朝鮮との国境沿いの家と話をつけて、若い娘が渡ってくると各地に送り出して紹介料を稼ぐブローカーである。北朝鮮の娘たちは、飢えから逃れるために不法に渡河してきたため、相手の年齢や経済程度、容貌などに条件をつけることもできず、身の安全を担保に紹介に応じる。
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