◆売買される難民女性の性
中国で北朝鮮難民女性が生きていけるのは、彼女たちの労働力や性が「商品」として売買取引されうるからだ。男の場合はそうはいかない。彼らの持っている労働力や性やその他のものは、失業者が溢れている中国東北部では、ほとんど「商品」たりえないからだ。
女性の値段は、当然「ニーズ」によって変わってくる。まれに子供のいない中国人の家庭が小さな女の子を養女として欲しがるケースがあるが、ほとんどは若さと容貌が値段の指標だ。
私が取材拠点にしている豆満江近くのある村のブローカーはこう言った。
「嫁取りの場合は若い女性は引く手が多いので当然高くなる。1000~5千元ぐらいまでだ。60歳ぐらいまでなら、中国の年寄りのやもめからも引き合いがくる。500元~1000元ぐらいか。自分は見合いの仲介しかしないが、悪どいやつらは、ノリゲとしてだまして売り飛ばす。漢民族の村に売ったり、置屋に売ったりだ」
※2000年当時1000中国元は約13000円
もちろん本人の意思や希望などが考慮される余地はほとんどない。彼女たちもそんな贄沢をいえる立場にないことをよく知っている。仮のものでも家庭を作る相方としてならまだしも、単純な性処理の道具として売られていく悲劇的な話も頻繁に耳にする。
山東省の農村に売り飛ばされた北朝鮮の若い女性が、村の男どもの「共有物」として長く監禁されていた事例を私は知っている。また、闇の売春宿が摘発されて、監禁されて客を取らされていた北朝鮮の女性が助け出されたものの、結局北朝鮮に送還されたケースもあった。乳飲み子を抱えたある若夫婦のケースも凄まじかった。2001年初めに取材した事例だ。咸鏡北道から脱出してきたこの若夫婦は、黒龍江省の農村に住む遠い親戚の家に転がり込んだ。村に空家を一軒安く借りて住み始めたが、夫婦には現金がまったくない。農閑期の冬の村には仕事もなく、しかたなく夫婦は話し合って妻が「客を取る」ことにした。親戚には内緒で夫が仲介人と話をつけ、一回数十元で妻は行きずりの男の相手をせざるをえなかった。
「それでも北朝鮮にいるよりはましなんです。あそこでは子供は育てられません」
妻は支援団体の女性スタッフの聞き取り調査に、泣きながらそう語ったそうである。この一家はその後韓国入りを果たしたが、妻が春を鬻(ひさ)ぐことがなければ、二年間に及ぶ潜伏生活は不可能だっただろう。
このような難民女性の哀しい境遇は、北朝鮮の内部にも通じているようだ。難民たちの証言によると、北朝鮮内でも食糧事情が厳しくなった94~95年ごろから、自らの体を売ることで家庭を支える女性が急増していたという。
駅頭や闇市場などの街頭に立って「パムコッ(夜の花)買いませんか?」と春を鬻ぐのだそうだ。酷い場合は闇市場のパン数個分の値段で自らを売るケースもあるという。また、売春の場所を提供して商売している家も少なくないという。(続く19へ >>)