(3)ロシアルート

中国の偽造旅券でウラジオストクへ、または、黒龍江省、内蒙古からシベリア鉄道でモスクワへ行き、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で難民認定を受けてソウルに入る方法である。

また、ロシアのシベリア地域には、伐採工として働く北朝鮮契約労働者が数千~万単位でいる。隔離された伐採キャンプで劣悪な条件のもとで働いていたが、90年代前半からロシアの経済悪化によって仕事量が減り、ハバロフスクなどの都市で建設労働に従事する者が増えた。これらの人がキャンプから逃亡して韓国への亡命を目指すケースが出た。

いずれの場合も、金と時間がかかり、中国と比べて潜伏できる朝鮮民族コミュニティが小さく、かつロシア警察当局が問答無用に近い手荒な取り締まりをするため、ルートとして利用するケースは多くない。

(4)韓国偽造旅券を使用して直接韓国に

もともと、中国人が、韓国や欧州などの西側先進国に出稼ぎに行くために、韓国旅券が売買の対象になっていた。写真を張り替えるという単純な方法だ。9798年ごろから計数十万通もの韓国旅券が中国で紛失申告されており、その大部分が売買されたものと韓国入管当局はみている。

この偽造旅券を使って韓国に入国する方法もあるのだが、旅券偽造の費用、飛行機代金を合わせて日本円で120万~150万円ほどかかるため、特別なケースを除いて支援団体は脱出方法としては使わない。高すぎるのだ。

偽造旅券による韓国入国が増えたのは99年ごろからだが、もっぱら韓国、米国、日本に住む難民の親族が経費を負担するケースだった。ところが、先に韓国入りした難民が、中国に潜伏している家族を脱出させたり、場合によっては北朝鮮から中国に脱出させて、さらに韓国に入国させる手段として多用するようになった。「呼び寄せ型」の亡命だ。高額の経費は韓国政府から支給される「定着支援金」を流用するのである。

北朝鮮と中国を行き来する密輸屋や「渡し屋」と呼ばれる北朝鮮人ブローカー、中国人の旅券偽造組織、そして韓国内のブローカーがチームを組んでいる。電話一本で仕事を請け負い、早ければ一週間以内に韓国まで連れてくる。いくら難民を安全な韓国に連れてくるためとはいえ、韓国社会への「定着支援金」という税金が密入国に使われ、旅券の偽造が横行する事態に韓国政府は頭を悩ませている。

以上のように、北朝鮮難民が韓国入りを果たそうとするとほとんどの場合韓国とは反対方向に向かって大きく迂回しなければならない。中国の国境近くの都市・延吉からソウルまでは直線距離にするとおよそ600キロ。これを東南アジアルートの場合で約5千キロ、モスクワルートの場合は約18千キロも旅しなければならないのだ。(続く21へ >>)

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