◆支援組織への弾圧
初めての駆け込み事件となったUNHCR事件の起こる直前の2001年4月、仏教系NGOの「よき仲間たち」の韓国人メンバー5人が吉林省で逮捕された。女性1人を含む5人は長春市に連行されて拷問まがいの厳しい取り調べを受け、約50日後に一部財産没収のうえ国外追放になった。
容疑は「韓国情報機関の任務を帯びたスパイ行為」。「よき仲間たち」は難民の韓国亡命には関わらず保護活動だけをしてきた「穏健派」で、対北食糧支援活動も中国当局が黙認していた。それが、スパイ容疑での追放という厳しい処分が下され、難民支援組織は大きな衝撃を受けた。
ソウルに追放されたメンバーは記者会見を開き、
「中国の政治警察である国家安全局が取り調べを担当した。 『このまま北朝鮮の国家保衛部に引き渡してやる』と脅された」
と取り調べの様子を生々しく証言した。
また2001年12月30日深夜、12人の北朝鮮難民を連れてモンゴル国境に向かっていた韓国のNGO「トゥリハナ」のメンバーら4人が、黒龍江省で密出国幇助容疑で現行犯逮捕される事件があった。
逮捕されたのは団体代表でキリスト教伝道師の千基元(チョン・ギウォン)さんと、先に韓国入りを果たし、身内を脱出させるために現地に赴いた元難民、取材のために同行したジャーナリスト、そして中国人の現地支援者である。モンゴル経由で韓国入りを狙った北朝鮮難民12人も一網打尽になった。
千さんは、逮捕されるまでに約140人の北朝鮮難民をモンゴルや東南アジア経由で韓国入りさせてきた。ひとつの団体としては最大だ。吉林省の地方都市に北朝鮮難民を対象とした地下教会を複数作って支援活動の拠点としていた。
また、2002年4月初めには、難民が多数潜伏する吉林省延吉市で、やはり難民支援活動を秘密裏に行っていた韓国人の崔奉一(チェ・ボンイル)牧師、在米韓国人の崔元燮(チェ・ウォンヒヨプ)牧師が自宅から連行され長期拘禁されている。この他にも、かなりの数の中国人の支援組織スタッフが拘束されている。
支援組織の取り締まりは、一連の「駆け込み亡命」への報復とみられる。厳しい取り締まりは一時的には支援組織を萎縮させることはできるだろうが、「駆け込み」が警備強化で困難になったため、手段に難民と支援組織をさらに過激な駆り立てる結果にならないかと心配だ。
難民と支援者は取り締まりに追い詰められ仕方なく「駆け込み」を選択した。それが無理となると、命懸けの難民は別の冒険を実行するしかなくなるのである。(この章終わり)