◆「イスラエルでもパレスチナでも人が殺されている」
エヴァリンさんに平和のことを聞くと、
「新しい世代、私の世代には平和を実現するチャンスがあると思います。私たちはより柔軟で、現代的な思考を持っていますから、世界も変わっています。私はイスラエル人の国とパレスチナ人の国と共存する道を信じています。今すぐに実現できるとは思っていませんし、10年か、数十年かかるかも知れませんが、それでも実現できると思います。平和に向かっていかねばなりません。常に銃を所持したり、戦争の恐怖のなかにいるなんて、そういう状態で生き続けることはできません。イスラエルでもパレスチナでも人が殺されています。ガザの人が殺されることは悲しいです。自分の両親がガザからたった30キロのところに住んでいるのも、先週、セーフルーム(防空壕)に駆け込まなければならなかったのも悲しいです」
エヴァリンさんによると、娘を産んだ時、イスラエルによる大規模なガザへの攻撃があった。3か月の娘を抱えて、真夜中にセーフルームへ駆け込んだこともあったという。
「イスラエルもパレスチナも両方が苦しんでいます。お互いのために終わらせなければいけません。多分、新しい世代の人たちなら、そのためのより柔軟な心を持っていると思います」
と答えてくれた。エヴァリンさんのような考えの持ち主は多いとは思えないし、むしろイスラエル国内では少数派かも知れない。
アメリカ大使館のエルサレム移転の問題などで、今年の3月30日から、イスラエルとガザの境界では、パレスチナの若者とイスラエル軍との緊張状態が続いている。
暗礁に乗り上げている和平交渉、閉塞したイスラエルとパレスチナの政治状況、暗澹とした中で、私はエヴァリンさんの話を聞いて救われた気がしたが、同時にイスラエルとパレスチナの緊迫度の違いを感じた。
■イスラエルとパレスチナ■
1947年に国連は、パレスチナの土地に、アラブとユダヤの2つの国家をつくるという分割決議案を採択する。1948年、ユダヤ側はイスラエルを建国。それをうけ第一次中東戦争が起こり、70万人以上のパレスチナ難民が生まれた。2018年はイスラエルにとっては建国70年であり、同時にパレスチナでは故郷を失い、難民という苦難が始まって70年となる。
2017年12月6日、トランプ米大統領はエルサレムをイスラエルの首都として正式に認め、イスラエルの建国70年に合わせて、2018年5月14日にアメリカ大使館をエルサレムに移転し、開設式典が行われた。一方、同じ日にイスラエルとガザ地区の境界で抗議するパレスチナ人たちに、イスラエル軍は実弾や催涙ガス弾を発射し、1日でおよそ60人のパレスチナ人が死亡した。