礼拝の始まりを告げる呼びかけがモスクのスピーカーから響くなか、モスクに入れない人びとは屋外の広場に並び、数百人の男女が静かに礼拝を始めた。何事もなく終わるかと思ったその時、突然、モスクの入り口近くで男の声があがった。
「ビンラディン万歳!アメリカ打倒!」
まわりの男たちは一斉に声をそろえ、こぶしを振り上げる。横断幕を広げ、シュプレヒコールが熱を帯びる。すぐさま100人を超える機動隊が一斉に突進し、男たちを蹴散らし始めた。
あご髭を蓄えた男たちが取り押さえられ、次々と警察車両に放り込まれていく。それでも群衆は「アメリカ同時多発攻撃事件」を称賛するスローガンを叫び続ける。するとパーンという音とともに白煙が上がった。催涙ガスだ。
立ち込めるガスの煙のなか、私はむせかえり、目がチクチクして涙が流れ出てくる。群衆の男たちめがけて突入してきたガスマスク姿の機動隊に、私は腕をつかまれ、突き飛ばされてしまった。
アメリカでの同時多発攻撃事件の直後だけに、ビンラディンや事件を称賛する人びとがいたことは驚きだった。群衆は強制的に解散させられたものの、装甲車が走り回り、現場は騒然としていた。
催涙ガスを吸い混んで涙が止まらない私に、路上のパン売りのおじさんが声をかけてくれた。
「大丈夫かい?あれは一部の過激な人たちだ。どうかトルコのことを誤解しないでくれ」
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