イスラム系人権団体のアハメット・メルジャン氏。「イスラムの伸長がトルコの国家の根幹思想を揺るがすという意識が政府に働いてきた」と話した。(2001年10月・トルコ・イスタンブール・玉本英子)

◆世俗主義とイスラムで揺れてきた振り子

人権団体マズルム・デルは、おもにイスラム系の人権問題に取り組んできた。女子学生のスカーフ着用禁止措置問題への反対活動や、デモや集会で逮捕された被疑者の救援もおこなう。運営委員のひとり、アハメット・メルジャン氏(46歳・当時)は言った。
「9.11事件は残念なことです。一部の過激主義のせいで、イスラムの誤ったイメージが世界に広まるのを懸念します」

イスタンブールの路上で。スカーフをかぶるかどうかは様々。トルコでは「自分たちは時代に適応してきたモダンなイスラム」という認識を持つ人が多い。テロを標榜するようなイスラム過激主義を支持する人はほとんどいない。(2001年・イスタンブール・玉本英子)

 

また、トルコの世俗主義と、政府による「イスラム規制」への姿勢については、こう話した。
「イスラムが政治や社会で少しでも影響力を持ったとみなされると、政府が介入しました。イスラムの伸長がトルコ共和国の根幹理念を揺るがすという意識がつねに政府に働いてきたからです。その過程で、“イスラム主義の表明をした”などの理由で公務員が職を追われ、大学では女子学生がスカーフ着用禁止で苦しんできました」

この取材をした当時、イスラム政党は結成しては司法当局から閉鎖命令が出され、世俗主義の守護者たる軍部の力もまだまだ強大だった。ところが2002年頃を境に、イスラム政党が全国で躍進し、エルドアンが政権基盤を固めるに至る。

「アメリカ打倒」を叫び、警察の解散命令に従わず、逮捕される男たち。2014年に武装組織イスラム国((IS)が台頭し、トルコでも過激主義に感化された一部が義勇戦闘員としてシリア・イラクへと向かった。(2001年10月・トルコ・イスタンブール・玉本英子)

 

軍部右派地下組織エルゲネコンの解体、そして2016年の軍事クーデター未遂事件以後の一斉摘発もあって、世俗主義の牙城たるかつての軍部の姿は見る影もない。世俗主義とイスラムのあいだで揺れ続けてきた振り子。エルドアン時代になって、その振り子はイスラムへと振れていく。

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