第1作『ゴジラ』では、ゴジラの存在が明らかにされた後、政府は「特設災害対策本部」を立ち上げる。本部には「東京都漁業共同組合陳情団」など、多くの人々が押しかけゴジラへの対応を迫った。そんな中、一人、古生物学者の山根博士だけがゴジラ打倒に異を唱える。(伊藤宏/新聞うずみ火)
◆抹殺ではなく研究を
対策本部はまず、ゴジラが潜んでいるとみられる海域で、フリゲート艦隊による爆雷攻撃を実施する。それを報じるテレビニュースを見ていた山根博士は、いたたまれなくなったように席を立ってしまう。
山根博士は自室に引きこもり、心配する娘・恵美子に「しばらく独りにしといてくれ」と言い、暗い部屋でじっと座り込んでしまうのだった。健吉(大戸島で母と兄をゴジラに殺された後は山根家に身を寄せていた)が「どうかしたんでしょうか」と問うと、恵美子の恋人・尾形は「先生は動物学者だからゴジラを殺したくないんだ」と答える。
爆雷攻撃の後、人々はゴジラの存在を忘れたかのようになった。東京湾を航行する遊覧船では、人々が酒やダンスを楽しんでいた。そこへ、不気味な足音とともにゴジラが姿を現し、船内はパニックとなった。咆吼したゴジラだったが、すぐにまた海中に没していく。
翌日、山根博士は対策本部に呼ばれた。本部関係者は「弱ったことになりました、先生。このままでは近く外国航路も停止しなきゃならん状況です。何かいい方法が……ヒントだけでも結構ですが何かひとつ」と相談する。
「そうですな……」と考えを巡らせる山根博士に、別の関係者が「山根博士、率直に申し上げます。いかにしたらゴジラの生命を絶つことができるか、その対策を伺いたいんです」と詰め寄った。すると山根博士は「それは無理です」と即答する。そして「水爆の洗礼を受けながらも、なおかつ生命を保っているゴジラを、何をもって抹殺しようというのですか」と逆に問うのであった。さらに「そんなことよりも、まずあの不思議な生命力を研究することこそ第一の急務です」と力説した。
科学者のエゴという見方もできるであろう。しかし、政府はもとより多くの人々がゴジラを「倒すべき存在」と考えていた中で、それに堂々と異を唱えたわけだ。戦前の日本であれば、間違いなく「非国民」として糾弾されたことであろう。