◆社会不安で復活した占いが大流行
北朝鮮では、宗教と迷信は社会主義思想を瓦解させて、階級意識を麻痺させるアヘンのようなものとして長く排撃されてきた。多くの脱北者が証言するところによると、1960年代後半には、表だった宗教活動はほぼ姿を消してしまった。
あらゆる宗教活動は厳禁され、仏教やキリスト教の信仰、布教活動は政治犯罪とみなされた。また朝鮮の土着信仰のシャーマニズムの祭事や占い事も迷信として取り締まりの対象となって根絶やしにされた。
しかし、1990年代の未曽有の大飢饉で社会不安が広がると、迷信や占いは凄まじい勢いで復活していった。商売に出かける日や方角の運気を確認したり、吉凶を見るために占い師に頼ることはありふれたことになり、最近では、投資分野や経済の展望まで占い師に頼る人たちもいる。
その占い師が「暴露集会」の標的になった。参加した恵山市の住民は次のように述べる。
「占い費用の相場は一回に10中国元で、最高は100元なのだそうだ。確かにぼろ儲けだ。麻薬とはヒロポン(覚せい剤)のこと。今回、集会に引きずり出されたのは、200回以上服用した者、数百回も売買、運搬した者ということでした。覚せい剤は1グラム100中国元で売られています。国が厳しく取り締まりをしているけれど、覚せい剤中毒の幹部がたくさんいるので、根絶は無理でしょう」(10元は約163円)
集会参加者や現地の情報を総合すると、「群衆暴露集会」に引きずり出された者は、壇上で逮捕され手錠をかけて車に乗せて連れて行かれた。その後に警察で正式の予審(取り調べ)を受け、裁判に進む手順だという。おそらく、一年未満の強制労働を科す「労働鍛錬隊」に送られるか、教化刑(懲役刑)に処されることになるのだろう。この点が、これまで各地でしばしば公開的に裁きを行った「群衆裁判」とは異なる。
恵山市は中国吉林省と国境を接し、外部情報の流入や密輸、不法越境の最大のポイントになっており、「非社会主義行為」(社会主義に反する行為)に対する監視、取り締まりが非常に厳しい地域だ。「群衆暴露集会」も、恵山市の住民に対する見せしめの意味合いが強いものと思われる。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮国内に投入して連絡を取り合っている。
<北朝鮮内部>占い師はなぜ群衆の前に引きずり出されたのか? 一族崇拝しか許さない金正恩政権 (石丸次郎 Yahoo!個人)