アスベスト規制の強化について環境省の小委員会で本格的な議論が始まった。専門家らに対するヒアリングでは最新の被害予測が紹介され、海外の状況も踏まえた対策のありかたが提言された(井部正之/アジアプレス)
◆2017年の死亡2万人弱と推計
「アスベストの使用禁止は重要な一歩ですが、最初の一歩にすぎない」
こう話すのは全国労働安全衛生センター連絡会議の古谷杉郎事務局長だ。発言があったのは11月21日に開催された環境省の石綿飛散防止小委員会(委員長:大塚直・早稲田大学大学院法務研究科教授)である。
この日のヒアリングでは被害者団体など5団体が意見を述べた。古谷氏もその1人である。
「議論の前提」として古谷氏は「世界疾病負荷推計」を紹介した。予防可能な疾病の負荷を予測することで被害を減らすとの目的で世界各国の研究者が有志でデータを持ち寄って推計したもの。
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そこで示された日本におけるアスベスト被害は驚くべきものだ。中皮腫の統計が日本で初めてとられた1995年の中皮腫死亡者数は500人に対し、肺がんなどほかのアスベスト関連疾患による死亡者も含めて6000人弱と推計。統計では中皮腫死亡者数が1555人と過去最悪を更新した2017年には、なんと2万人近い死亡者に達したとの推計結果だ。おおよそ中皮腫による死亡者数の約10倍との予測となっている。圧倒的に多いのはアスベストが原因の肺がんによる被害だ。2017年だけで約1万6700人の死亡者との推計で88%を占める。
「中皮腫、肺がん、石綿肺だけでなく、日本ではアスベスト被害とみなされていない卵巣がん、喉頭がんの死亡も推定しています。肺がんの数字の大きさに驚かれると思われると思います」(古谷氏)
現在日本では中皮腫死亡者約1500人に対し、中皮腫死亡者に対し肺がんは2倍との世界保健機関(WHO)などによる推計から肺がんの死亡者を約3000人とし、それらを合わせた約4500人との推定死亡者数がしばしば使われる。環境省が石綿健康被害救済法による救済金の原資とする基金設立の際も同様の推計から必要額を試算している。
ところが、世界疾病負荷ではその4倍超の2万人近い死者が発生しているとの被害予測である。日本におけるアスベスト被害は現在いわれているよりはるかに多い可能性があるということだ。
この「前提」のうえで古谷氏はアスベスト使用禁止後に必要とされている以下の4項目を挙げる。
・禁止の実現とその執行
・アスベストのない環境や社会の実現(既存アスベスト対策)
・アスベスト関連疾患の根絶および被害者・家族に対する正義の実現
・上記を世界的に達成するための国際協力の促進