◆建物使用時の調査・管理必要
また世界労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)はアスベスト関連疾患を根絶するため、国家計画を作成するよう呼びかけている。その概要を20ページの小冊子にまとめている。おもに現在もアスベストを使い続けている国に対して、早く使用を止めるよう促すものだが、すでに使用などを禁止した国であってもそうした取り組みをするよう求めていると古谷氏は紹介する。すでにオーストラリアなどがこれに沿った国家計画を策定しているという。
その小冊子でILOとWHOはアスベストの使用状況などをまとめたナショナル・アスベスト・プロファイルとアスベスト関連疾患根絶計画の作成のほか、すべての既存アスベストの安全な除去や廃棄に向けた達成目標時期の設定とロードマップの作成などを求めている。
2017年に欧州議会は2027年までにアスベストのないEUを実現すると決議。オーストラリアは2013年に新しい国家機関「アスベスト安全根絶庁」を設置し、2030年までにアスベストのない社会を実現する方針だ。オランダでは2027年までにアスベストを使った屋根材をすべて除去するとして取り組みを開始している。韓国も2030年までに学校からアスベストをなくすと計画。現政権下で2027年までに前倒しするという。
古谷氏は各国の取り組みを紹介し、「いつ実現すると目標を立てて、ロードマップを作ってやっていくことは世界共通の課題です。すべてのアスベストを一気になくすことはできないわけですから」とこうした手法の重要性を強調する。
日本におけるアスベスト調査の仕組みについてはこう指摘した。
「イギリスの『アスベスト管理規則』ではまずアスベストが使われているのか使われていないのか調べて、リスクアセスメントを実施して、それに基づいて管理する。そうした手続きを経た建物でなければ、除去工事をおこなってはならないというのが基本的な考え方です。
一方、日本では解体などをおこなうことになって初めて調査する。アスベストが見つかれば、コストが高くなるとか、アスベストがないほうがいいという心理も当然働く。アスベストがちゃんと調査・管理されている建物でなければ、除去させないという発想が必要だと思う。
(厚生労働省など3省共管で示した)新たな調査者の制度は、調査だけでリスクを評価するとかリスクを管理するというところが抜け落ちていることに非常な違和感がある」