10月末から北部地域一帯で住民への電力供給がストップしている。金正恩氏肝いりの三池淵(サムジヨン)地区の観光地開発工事に電力を集中させることになったからだという。三池淵の工事には住民が長期にわたって労働動員されており、停電で不満が高まっている。(カン・ジウォン/石丸次郎)
「やっと人間らしい暮しができると思っていたのにがっかりだ」
11月初旬、電気供給が途絶えて真っ暗闇になった北部の恵山(ヘサン)市に住む取材協力者から報告があった。現在、電気は一秒も来ていないという。
突然の全面停電は、金正恩氏が10月末に両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡を現地視察したのと同時に始まった。当局は停電の説明を次のようにしていると取材協力者は言う。
「三池淵の建設工事にすべてを集中せよという金正恩の指示があって、北部地域の両江道、慈江道(チャガンド)、咸鏡北道(ハムギョンプクド)で、住民向け電気を、三池淵建設を最優先して振り向けられることになった。11月に入って、電気はまったく来ていない」
◆工事に動員され物資も供出、そして電気まで
三池淵郡は、9月に韓国の文在寅大統領も訪問した名山・白頭山の麓にあり、2016年11月に大観光特区建設を金正恩氏が命じて、住民を大挙動員しての突貫工事が続いている。
北朝鮮では、2017年末から平壌を除く全国で住民への電気供給が大幅に悪化、まったく電気が来ない「絶電」地域が拡大していたが、今年6月末から突然改善された。金正恩氏が中国を三度訪問して習近平主席と会談した後、中国が北朝鮮に電力供給を始めたという説がある。
最近まで、全国でおおむね一日10時間程度の電気供給があり、「人間の暮しができる」と住民たちは大喜びだった。それが突然の停電。両江道では一日に18~24時間供給されていた産業用電気も10時間ほどに減らされている。