◆公害輸出を繰り返すのか
アジア石綿禁止ネットワークのコーディネーター・古谷杉郎氏は「毎年生産される約150万トンのアスベストのほとんどがアジア諸国で使用されており、そこでは単にもう1つの材料程度に捉えられています。アスベスト関連疾患の流行は日本と韓国で記録され、アスベスト関連疾患はインド、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、モンゴルでも発症例が見つかっており、今後の被害拡大が懸念されています」と指摘する。
同社の発表資料には「その地域の法規制や規範に従い、安全性、環境保護にベストプラクティスの範囲内で取り組む」と、あくまで現地の法規制の範囲内でのみ対応する方針が明記されている。
世界各地でアスベスト被害を出している国際企業のエタニット社らしい、資本主義を突き詰めたような冷徹な方針である。
かつて日本でも1970年代の規制強化直前にクロシドライト(青石綿)の紡織工場を閉鎖し、韓国に工場移転して現地の労働者や周辺住民に中皮腫や石綿肺などの健康被害を発生させている。その工場は韓国の規制が強化された1990年代にインドネシアへと移転。すでにインドネシアでも石綿肺などの被害者が発生している。それと同じことが再び繰り返されようとしている。
国際建設林業労働組合連盟(BWI)の建設及び労働安全衛生グローバル地域ディレクター・フィオナ・ムーリー氏はこう批判している。
「労働者がアスベスト関連疾患になっても保護がほとんどなく、給付金や医療へのアクセスがない途上国にブラジルのエタニット社がアスベストを“投棄”することは許されません」
ブラジル国内では危なくて販売できなくなった売れ残りのアスベストを海外で売り逃げする。そんなエタニット社の新たな戦略は公害輸出の典型といわざるを得ない。BWIのムーリー氏が例えたように、海外への有害廃棄物の不法投棄と変わらない。