◆追われた家、その後、武装組織の家族が転居
「これまでの人生のすべてを奪われた」。
北西部コバニの親戚の家に身を寄せるデルウシュ・ナスロさん(55)は、涙が止まらなかった。幼い頃から働き、農業で成功した彼は、アフリンに4つの家を持つまでになった。
そこをトルコ軍が爆撃、親戚2人が死んだ。家族は町を脱出したが、彼だけはアフリンにとどまった。家や、先祖代々受け継いできた土地、オリーブの木800本のことが気になったからだ。
デルウシュさんは市内に残ったものの、村の家が心配になり、戻ることにした。家の扉の鍵は壊されていた。
中に入ろうとすると、ひげを長く伸ばしたイスラム組織の戦闘員らしき男が出てきた。デルウシュさんが「ここは私の家です」と言うと、男は「家は我々のものだ。奥には家族の女たちがいる。入ると殺す」と彼を殴った。
そして「我々は東グータから来た」と言った。
東グータは首都ダマスカス東部にある地区で、反体制武装諸派が拠点にしてきた。シリア政府軍は「テロリスト掃討」の名目で、昨年2月18日、大規模な攻撃を始めた。
その日から1週間のあいだに1000人以上の市民が空爆や砲撃で死亡したといわれる。
その後、3月下旬、東グータでは、反体制派が政府軍と部分合意。戦闘員と家族らはバスで他の反体制派拠点地域へ移動した。多くは北部イドリブの避難民キャンプなどへ移り、一部は武装組織の手引きでアフリンに移住した。
デルウィシュさんは言う。
「東グータの人たちが、アサド政権に家族を殺されたのは知っている。故郷を追われてアフリンに来るのもいい。だが、家や財産すべてを奪い、私たちを追い出すのはあまりにもひどい」。
4か月後、デルウィシュさんはアフリンを脱出し、コバニで家族と合流した。
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