◆米軍の空爆で市民に犠牲者も
トランプ政権になって以降、米国はIS掃討作戦を加速させた。YPGは米軍主導の有志連合の空爆支援や武器供与を受けて、地上戦を展開する。一方、米軍の空爆で多数の地元住民が犠牲となっている。IS壊滅作戦の「大義」の名のもとに、子どもを含む市民が巻き添えになり、被害者には医療支援や補償もなかった。この状況をどう思うか、私はハキに問うた。
<シリア>アフリン侵攻1年、故郷を奪われたクルド住民(写真5枚+地図)
僕には言葉は見つからないけど、としながらも彼は続けた。「罪なき女性や子どもが空爆で殺されるのは悲しいこと。米国は軍事作戦と同時に人道団体が医療や生活をサポートできる基盤を作らなければ、いずれISが復活することになる」。
YPGはシリア北部のクルド人居住地域の戦いを、「民主自治の社会革命」と位置付ける。その戦いに外国人義勇兵が結集することは、「各国の戦士たちも革命闘争を支持」と世界に向け、アピールすることにもつながる。国際社会がクルド問題を見放してきた中で、このIS掃討戦で外国人部隊を編成するYPGには、そうした政治的思惑もある。
シリア・イラク国境近くの町に追い詰められたIS。3月には最後の拠点、バグーズが陥落した。だが潜伏するIS残存部隊が各地で自爆攻撃を続けている。戦いは終わってはいない。
「世界は助けてくれない」 激しい攻撃受けるシリア・アフリンから届く嘆きの声
「この地の住民のために命を捧げる覚悟だ。必要とされる限りはここにとどまる。でも助っ人の役目を終えたら米国に戻って、経験をもとに社会運動をやりたい」。シリア戦闘組織に関与したことで、ハキはこの先、米FBI(連邦捜査局)の監視下に置かれることになるだろう。「それでも後悔はしない」と彼は言った。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年04月23日付記事に加筆修正したものです)