◆では誰が飢えているのか?
さて、肝心の食糧事情はどうなっているのか? 5月に入って、北朝鮮に住む取材協力者たちに聞いた。
「市場にコメ不足はないけれど、庶民はそれを買う余裕がないのです。商売がうまくいかないから。私も収入が2年前の半分になりました。皆、手持ちの金で食い繋いで生きています。苦しいのは農民。」(両江道恵山市の協力者)
「どこの市場にも、コメもトウモロコシもあります。今、一番飢えているのは農民たち。商売不振で老人だけの世帯も苦しい。その次が今年に入って配給が滞っている軍需工場と鉱山の労働者たちです。建設労働に動員される『突撃隊』の食事も相当ひどくなった」(咸鏡北道の協力者)
生産者である農民が飢えているのはなぜか?集団農業に固執する北朝鮮では、協同農場ごとに軍隊用の「軍糧米」と、国に納める「ノルマ」(計画量)があらかじめ決められている。それを超過した分が農民の取り分=分配となる。
しかし、この「ノルマ」が過大なのだ。不作で昨秋に分配された食糧があまりに少なく、早くも食べ尽してしまった世帯に、今、飢えが始まっている。原因は国家による収奪だ。
農民の次に生活難に喘いでいるのは都市の貧困層、そして配給が維持されている約20%のうちで、配給が滞った軍需産業などの労働者たちだ。一般兵士にも栄養失調者が多い。いずれも市場での商行為がうまくできないか、制限されている人たちだ。
市場にはコメがあるのに配給は滞っている…。この現象が意味するのは、国家保有食糧の不足である。市場のコメは民間保有食糧であり、人口の80%はそれを現金で購入して食べている。その不足は、今のところ報告されていない。
金正恩政権は、国家保有食糧を体制維持にとって重要な軍、公安機関、党、政府機関、建設動員者、重要企業、平壌市民から優先的に配給してきた。ところが、これがしばしば市場に流出していく。腐敗幹部による横流しや、金に困った機関が売り払うためだ。
今、北朝鮮で飢える人が生み出されているのは事実であり、もっとも困難な人から順に支援の手が差し伸べられるべきだ。急を要するのは農村だ。国連機関、韓国政府は、支援に当たって協同農場へのアクセスを北朝鮮政府に求めるべきだろう。