19時をまわり、すっかり人気がなくなってきた出展会場で、明日以降に開催されるTICADサイドイベントの告知が記されたチラシを手渡す人から、声をかけられた。
「今日は本会議からのお帰りですか? こちら(アフリカ)方面に詳しい方なのでしょうけれど、どちらに関心をお持ちの方なのですか?」
なにも隠す必要はない。「今回は、西サハラに関心があります」と答えると、「それはまた、ずいぶんとセンシティブなところを突かれますね」と言って、苦笑いをされた。
サハラ・アラブ民主共和国の名も、西サハラの名称も、TICADでは「センシティブ(繊細な事項)」とされている。日本はこの国を承認していない。
しかし、アフリカ連合はサハラ・アラブ民主共和国を正式な加盟国として迎え、ほかの独立国とまったく同様の敬意を払った処遇がとられている。
初めて来日し、初めて参加した西サハラの代表団がこの場にいるにもかかわらず、その名を語る人がいない。地図にも載せられていない。今たしかに目の前にいる代表団が、この会場では、見えないものとされてしまう。TICAD初日に、ガリ大統領の声がマイクを通して本会議場に届くことはなかった。
アフリカ最後の植民地である西サハラから初来日した、サハラ・アラブ民主共和国代表団を追った。44年もの長き月日を、周囲を砂漠に囲まれた難民キャンプで過ごしてきた西サハラの代表団が今、横浜にいる。
岩崎有一
ジャーナリスト。1995年以来、アフリカ27カ国を取材。アフリカの人々の日常と声を、社会・政治的背景とともに伝えている。近年のテーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」「西サハラ問題」など。アジアプレス所属。武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。
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