◆“実体”は認めないとされた
今回のTICAD7で、RASDはどのような扱いを受けたのだろうか。
28日のTICAD首脳会合開会式の冒頭で、河野外務大臣は、こう述べている。
「TICAD7の参加問題について、私は、(27日に開かれた閣僚級準備会合の冒頭で)日本政府の立場を明確に表明いたしました。閣僚級会合の審議はすべて円滑に進みました。すべての参加者に、心からの感謝をいたします。」
だが、河野外務大臣がその閣僚級準備会合の冒頭で表明した日本政府の立場とは、このような内容のものだった。
極めて和訳しにくい英文なのだが、直訳を試みた。拙訳は以下の通りだ。
「日本が国家として認めていない実体のTICAD7への出席は、その実体に対する国家(日本)の立場にいかなる影響も与えるものではありません。」
ここでの実体とは、RASD以外にないだろう。日本が国家として承認していないRASDがTICADに来ようとも、日本のRASDに対する認識は変わらない、との表明がなされたかっこうだ。
外務省のウェブサイトには、写真や本会議の映像など、TICAD7の様子が詳細に公開されているが、この表明についてはどこにも記されていない。皮肉にも、モロッコのメディアだけが、詳細に報じている。
27日のこの会合には、市民社会の代表として、アフリカ日本協議会代表理事の津山直子氏が参加していた。
「AU正式加盟国であるRASDのサーレク外務大臣を前にして、『entity(実体)を認めない』なんて、ひどい言い方です」
RASD外相は会場で、苦渋の表情を浮かべていたと津山氏は語っていた。
今回、AU加盟国すべての着席が認められたTICAD7とはなった。西サハラの民サハラーウィを代表するサハラ・アラブ民主共和国からの代表団の列席は、アフリカにおける民族自決の尊重という面で、重要な一歩が刻まれたとは言えよう。
しかし同時に、サハラ・アラブ民主共和国の“実体”は日本としては認めないものだとも、はっきりと表明された。準備会合とはいえ、わざわざTICAD7参加国が一堂に集う場で、である。
全AU加盟国の等しい扱いの実現をしているように見せつつ、実際はモロッコの意向を最大限に汲んだ表明をし、西サハラの声は無視されたに等しい。ガリ大統領をはじめ西サハラの代表団は、この対応をどう感じて日本を発つのだろうか。
西サハラ代表団の初参加がかなった記念すべきTICAD7は、西サハラの声が聞こえないまま、今日終わろうとしている。(続きの第3回 >>)
岩崎有一
ジャーナリスト。1995年以来、アフリカ27カ国を取材。アフリカの人々の日常と声を、社会・政治的背景とともに伝えている。近年のテーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」「西サハラ問題」など。アジアプレス所属。武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。
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