◆住民間で「憲法370条撤廃」の噂が流れる中……

直前の7月末にも、急に3万5千人の治安部隊が増派されており、これら一連の流れから、長年の経験をもとに「インド政府は何かを企んでいる」と人々は感づいたようだった。長期に渡る外出禁止令を見越して生活必需品を買いに走り、ガソリンスタンドには長蛇の列ができる様子がメディアを通して流れてきた。その記事の中には「憲法370条、憲法35条Aを撤廃するのでは」という噂が流れていることを報じていた

撤廃は与党であるインド人民党の長年の公約で、5月にインド人民党が選挙で勝利したことから、いつ実行されてもおかしくはなかった。こうした動きをジャンムー・カシミール州政府は「噂に惑わされて、パニックにならないように」と諫めていた。

ジャンムー・カシミール州の政治家で、インド政府と協調関係にあったメフーブーバ・ムフティ前州主席大臣やサジャード・ローン元州大臣たちは、噂を確かめようとサティヤ・マリク州知事を訪ね、「噂のような事はない」という言質を得ていた。元州主席大臣であるオマルとファルーク・アブドウッラー親子2人はデリーまで飛び、関係が良くなかったモーディー首相にまで会って同様の答えを得た。だが、彼らの警戒心は解けず、全員でファルーク・アブドウッラーの私邸で会議を開き、憲法370条を撤廃しないよう求める決議を出した。

8月5日、前日の夜からカシミールでは外出禁止令が発せられ、分離独立派だけでなく、前述のインド政府と協調関係があった政治家までもが自宅軟禁させられていると報じられた。そして、デリーでは閣議が開かれ、内務大臣のアミット・シャーが、現地時間11時から上院でカシミールについての議案提出を行うという速報が流れた。

私はインドのニュースチャンネルNDTVのインターネット中継で、その様子を見ていた。議場では国民会議派のカシミール選出のグラム・ナビ・アザード議員(彼もまた元州主席大臣)を代表に、野党の反対派が議長の制止にも関わらず、怒声を浴びせていた。だが、アミット・シャーは落ち着いた風に憲法370条を削除する改正案、ジャ-ンムー・カシミール州のうちジャンムー地域とカシミール地域を議会付きの連邦直轄領とし、ラダックを地域を議会のない連邦直轄領とする2案を説明した。議案は3分の2以上の賛成多数を得て可決され、8月9日、大統領によって承認された。(つづく↓)
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