(4)のアスベスト除去工事の終了後に工事が適正に完了したのか目視点検させる、いわゆる「完了検査」も、2012年の石綿飛散防止専門委員会で必要性が指摘されていたものだ。ようやく今回義務づける可能性が出てきたわけだが、同省が示したのは有資格者による目視点検のみ。
諸外国では有資格者による目視点検だけでなく、発じんさせつつ実施する空気中のアスベスト測定も義務づけられており、そうした海外情報も小委員会で紹介された。委員からは測定の必要性も指摘されたが、同省は認めず、諸外国よりも緩い規制とする方針を掲げた。
ちなみにお隣の韓国では、日本よりアスベスト被害が遅く社会問題化したにもかかわらず、建物などのアスベスト除去などの規制はほぼ米国と同じに強化されており、日本より厳しい。完了検査も上記の発じんさせて実施する測定を義務づけている。
(5)の作業基準違反に直罰規定を設けるというのは、現在の大防法では、仮にアスベストを大量飛散させる違法工事をしたとしても、「規制をよく知らなかった」と言い訳すれば、指導だけですむ。
現状では指導に従わない場合「改善命令」が出され、これにも従わない場合にだけ「告発」との手続きとなる。そのため、アスベストをいくら周辺に飛散させて、それが見つかったとしても、「規制をよく知らなかった」と言い訳して、その後の指導に形だけ従っていれば罰せられることはない。
厚労省所管の石綿則違反では摘発できるが、年に数件書類送検される程度で、起訴されることはまずない。仮に罰せられたとしても最大で6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金でしかない。
ずさん工事のほうが儲かり、正直者がバカをみる世界になっていることから、全体的に現場が良くならないとの構造的問題を抱えている。
環境省は今回ようやく作業基準に直罰規定を設けることで、アスベストを周辺に飛ばすといった規定に違反する行為があっただけで告発ができるようにしようというものだ。
同省は「一定の抑止効果が期待できる」と方針案で見解を示すが、現状で同じ罰則の安衛法石綿則違反が微罪すぎてまず起訴されないことからも、効果はあまり期待できまい。
「悪貨が良貨を駆逐する」同じ問題を抱えていた産廃問題では、廃棄物処理法違反の罰則を強化し続け、現在では法人に最大3億円の罰金。個人にも5年以下の懲役または1000万円以下の罰金である。実際、産廃問題では規制・罰則強化と取り締まりの強化で一定の成果を上げている。
映画館で上映前に必ず流れる「NOMORE映画泥棒」のCMで知られる映画の盗撮などは著作権法違反で10年以下の懲役または1000万円以下の罰金。現状の大防法・安衛法のアスベスト規制違反に対する罰則は緩すぎる。
そもそも罰則強化も10年以上前から指摘されていたことだ。それでも今回両省とも罰則の引き上げは見送った。今回厚労省側の改正方針にはほぼ触れていないが、結論からいってしまえば両省とも抜本改正にはほど遠く、またも「形だけの改正」となりそうである。
9月2日以降に報じられた「規制強化」の内実はこの程度でしかない。