表現の自由に関する国連特別報告者デビッド・ケイ氏が2016年4月に日本を調査訪問して3年になる。当時、彼の訪日やその勧告はニュースでも報じられて話題になった。そして今年6月には「日本政府は勧告をほとんど履行していない」という趣旨のフォローアップ報告書(※1)が国連人権理事会に提出され、日本のニュースにも取り上げられた。しかし、日本政府は彼の勧告や報告に対しては「遺憾である」との一辺倒である。
筆者は、ケイ氏の2016年の調査訪日や、6月のフォローアップ報告書の作成などに協力してきた。そして先日の人権理事会にも出席して、彼ともあらためて日本の状況について意見交換する機会もあった。それらを踏まえて、ケイ氏による報告書の勧告と、その実施の問題について紹介したい。

国連人権理事会の表現の自由に関する国連特別報告者デビッド・ケイ氏。2019年7月ロンドンにて藤田早苗撮影。

◆国連人権理事会による表現の自由調査とは

国連人権理事会は現在日本を含む47か国からなり、国別及びテーマ別の特別報告者を任命する。そして彼らは、国の代表でも国連職員でもない独立の専門家として調査研究し、人権理事会に報告する。テーマ別特別報告者は、年に2,3カ国を選んで公式調査訪問をするが、表現の自由に関する国連特別報告者であるデビッド・ケイ氏は2016年の4月に日本を調査訪問した。当初、訪問は2015年12月に予定されていたが、直前になって日本政府が「来年の秋以降に」と実質上の「ドタキャン」を行ったため、国際社会にも衝撃を与え、国内のニュースでも取り上げられた。

その後の交渉の結果、調査訪問は2016年4月に実現するのだが、直前の2月に高市早苗総務大臣による「電波停止」発言 (※2)があり、3月にはテレビ朝日の報道ステーションから古舘伊知郎氏、TBSのNEW23から岸井成格氏、NHKのクローズアップ現代から国谷裕子氏など、政権に足しても踏み込んだコメントをするキャスターが次々に降板し、海外メディアでも日本のジャーナリズムの独立性を危ぶむ記事が出された。(※3)ケイ氏の調査訪問は、まさにそういう時あ期に行われた。

調査は、秘密保護法、沖縄、デモへの過剰警備、歴史教科書の問題など、表現の自由に関わる広い範囲を対象に行われたが、メディアの独立性は優先課題の一つであった。ケイ氏は、連日、政府や市民社会、メディア関係者などから幅広く聞き取り調査を行い、最終日には暫定報告書が発表され、外国特派員協会で1時間半の記者会見が行われた。そしてその翌年の2017年6月に、11の勧告を含む最終報告書 (※4)が国連人権理事会に提出された。今年はその調査から3年目になり、勧告の実施状況をフォローアップするための報告書が準備され、6月の人権理事会に提出された。
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